とある一軒の新婚家庭。

 旦那様の名は一護。
 奥様の名は冬獅郎。

 ごく普通のふたりは、ごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしました。でも、ただひとつ違っていたのは、奥様は『攻め』だったのです─―






   奥様は攻め
   第1046話 『初めての午前様』







 冬獅郎は、顎を掻いていた手を体の前で組み直し、息をひとつ吐き出した。
 (遅い)
 時計の針は、とうに日付を越えている。遅くなるとは、一言も言っていなかった。
 (なにやってやがる)
 額に青筋が浮いていた。

 さて一方、旦那様は。
 3軒隣の家の前から動けないでいた。
 (なんか…ものっすごい負のオーラを感じる)
 あそこに近寄ったら死ぬ。たぶん死ぬ。本能がそう告げている。しかし哀しいかな、そこは一護と冬獅郎の愛の巣。マイ・スウィートホーム。帰らないわけには行かないのだ。
 己の迂闊さを呪いながら、一護は震える脚を踏み出した。



 「ただ…い…」
 「随分お早いお帰りで」
 「………ま…」

 玄関開けたら2秒でいやん。

 夜叉も般若も裸足で逃げ出す凄絶な微笑み。
 世の鬼嫁のなんと可愛く見えることか。

 「あの…悪い。悪かった。呑みに誘われて」
 「連絡する暇もなかったか? 『今日、遅くなる』――5秒もありゃ、言えるだろ」
 「だから、ごめん、て…。あの…みやげ」
 寿司折を差し出す。
 「ふぅん…寿司か。…美味かったか?」
 「へ? あ、あぁ」
 「――作ったメシ、すっかり冷めちまった」
 俺の愛とハラワタは煮えくり返ってるけどな…!
 「………」
 がたがたぶるぶる。
 「一緒に…食べ」
 「ほー、俺の手料理は食えないってか?」
 「めっそーもない! こっ、これはっ、日頃の感謝の気持ちでして!」
 青い顔で直立不動。滝のような汗を流す旦那様を、奥様は目を眇めて見遣り、口の端を持ち上げた。
 「いい心がけだな。…じゃあ、それは布団の中で証明してもらおうか?」
 一気に血の気が引く一護。
 「あ…の……、俺、明日も…仕事…」
 「呑んでくる元気はあっても、妻に与える愛はないって? お前、一生俺を愛してくれるって言ったよな?」
 愛している。心の底から愛している。だが一護は3日前にも仕事を休んだばかりだった。当然、前夜のナニがアレすぎて起き上がることすら出来なかったためである。
 そんなに休んでばかりいたら、クビになってしまう。てゆーか、未だになっていない方が不思議なくらいだ。
 「安心しろ。もしクビになっても、お前1人くらい俺が養ってやる」
 否応もなく横抱きに抱え上げられ寝室へと向かいながら、
 (なんで俺、こんな男前を嫁に貰ったんだろ…)
 人生の不思議に首を傾げる旦那様だった。



   +++++



 シーツに沈む膝が震える。高く揚げた腰が蕩けるほど熱い。
 節くれ立った長い指が奥まで侵入り込み、身の内側を撫でる。その手管に慣れることは、きっとない。知れば知るほど、その先を求めるばかり。
 目尻に浮かぶ涙。酔っているときは鈍感になるなんて、絶対に嘘だ。
 「と…と、しろ…… また…ッ」
 しゃくり上げるような声で限界を告げる。白いシーツに散る白濁は、今宵二度目。下腹と内股がびくびくと震えていた。
 くずおれそうな体を許さず、冬獅郎は挿れたままの指先で、触れるしこりを強く擦った。
 「――ッ…!! …っあ、…」
 固く目を瞑り、衝撃に耐える一護。鼻をすすると、ぐすりと情けない涙声になった。
 「も…やだ……」
 「ケチな土産で俺を釣ろうなんて、甘いんだよ。愛は体で示しな」
 こんなに自分は熱くなっているのに、冬獅郎の声は冷たく耳に響く。
 「バカ、あれ、た、高かった…んだぞ…ッ」
 見当違いの答えを返していることにも考えが及ばない。
 「同じ『マグロ』なら、お前の方が美味い。…活きもいいしな」
 冬獅郎の悪乗りも理解できず。
 「…? マグロじゃな…、おすすめは、トロって…言ってた……」
 「そうじゃなくて…… ――もう、寿司の話はいい」
 溜息ひとつ、指を抜いて。一護の体をくるりと裏返した。



 「……と、冬獅郎… なぁ、やだって…こんなの」
 不安がる声。おしおきだと哂う冬獅郎にされるがまま、手は頭上で、両膝は揃えて縛り上げられた。
 しかし本気で抵抗する気もあるのかないのか、上げた手など、片方、肘の辺りでそっと押さえているだけなのに下ろそうともしない。
 合わせた膝を胸に付くほど持ち上げてやれば、慣れない事態にそれでも疼く蕾がひくりと喘いでいる様が見えた。
 見せ付けるようにわざと目の前で指を舐めて見せて、頬を赤らめる一護をからかう。下肢に視線を流せば、呼応するように体が震え。
 「ぅ… や…」
 吐息が漏れる。
 「嫌がってるようには見えないな」
 嘲ってやれば、真っ赤な顔で傷付いた目を見せて。
 それがまた可愛いのだと、子供染みた快感を自嘲した。
 ――好きな子ほどいじめたい。


 自分のものとは思えない、思いたくはない、鼻に掛かった尻上がりの甘い悲鳴が、閉じているつもりの唇から零れ出る。
 (なんで、こんな)
 擦り上げる腰の動きはいつもとそう変わらないと思うのに、気持ち良くてしようがない。
 つい、強請る言葉まで口走ってしまいそうで。
 目を瞑って首を振ると、また涙がこめかみを流れ落ちた。
 縛られた手首が軋む。
 自由にならない体の歯痒さが、より繋がりを求めて快感を拾っているのだと。
 そこまで思い至らずとも、なんかこんなのもたまにはいいかもしれないと、激しく突き上げられながら陶然とした。

 うっかり道を踏み外してしまいそうな、そんな刺激的な夜も新婚ならではということで。








母さんの夫婦旦ですよ!(にこ!
完璧にエチャでの会話を再現してくださいましたよわぁああ俺力不足ぅううう!!
ありがとう母さんありがとう!
ご め ん ね 理 知 ら ず 描 い て な く て (不甲斐無や‥っ

貴方への愛に溺れる:耶斗
'06/07