2007






「チキチキ☆2007年明けて初めての恋・ばな・しーーー!!略して恋バナ!」
「『し』を抜かしただけだな誰だ一護に酒飲ませたの」
「堅い事言いっこなしですよぅ隊長。年初めに全てを忘れて飲み明かす。なんて贅沢でしょう!」
「確かに贅沢な頭ですねつい3分前に明けた新年でいきなり忘れさってしまいたいほどのどれほどの煩悩を抱え込んだんですか」
「あ、つっめたーい恋次!ルキアに言いつけてやるーぅ」
「何でだよ!何をだよ!!あ、待てコラ松本さん!」

 ばたばたと隊内上位2位のものとは思えない足音がけたたましく去っていたところで2組に分かれて行われた忘・新年会会場で生き残っているのは一護、冬獅郎を含め僅か数名であった。10の襖をぶち抜いてつくられた会場では膳と銚子が散乱し、生きているのか死んでいるのか、6、8、10の隊員たちは全て乱菊の玩具となっていた。ちなみに班分けは偶数、奇数であるのだが一番隊は総隊長が纏めるだけあって全隊合同総宴会のみの出席で、つまり3日にしか顔を出さない。二番隊は顔を見られるわけには行かない隠密たちへの配慮で自由出席、つまりは欠席、四番隊は運び込まれる急性アルコール中毒患者の応対のため隊を挙げての欠席、十二番隊は隊長を筆頭に近所付き合いの気紛れも起きない連中なので当然欠席、というわけで例年6、8、10の寂しいようでいて大所帯の宴会が繰り広げられるのだ。

「ってオイコラ出だしの俺の台詞スルーしようとしてんじゃねぇよ!」
 すぱぁんと一護の裏拳が十番隊隊長の眉間にヒットした。杯を口に運んでいた冬獅郎は悲鳴を上げることもできず無理矢理に嚥下した酒に咽た。
「ぐ‥っふ、てめぇ‥つっこみならせめて平手だろうが!拳を握るな凶器だぞそれは!!」
「ちきちき☆2007年明けまして恋ばな〜」
 もはやぐでんぐでんの一護は両手を冬獅郎の首に絡ませしな垂れかかってくる。その状況において一護のイっちゃってる目だけが全てを裏切っているといえた。
「お前何がしたいんだ‥」
 引き剥がしていいのか殴っていいのか助けをもとめるのは隊長の、否、男の矜持が許さない冬獅郎は死んだ魚のような人間の眼をしっかりと見詰め返す。呆れ半分、不安半分である。
「恋してますか?」
「すいませんわかりません」
「その年で恋のひとつもないとは‥嘆かわしい!」
「いだだだだだだだだ髪を引っ張るな!」
 叫ぶ冬獅郎の声は篭もっている。力一杯抱きしめられているからだ。そして力一杯髪を握り締められている。
「抜ける!禿げる!河童ハゲなんぞ御免だぞ俺は!!」
 この時点で十番隊隊長も相当に酒気を帯びていることに気付く者がいるだろうか。否、ただ一人としていなかった。半覚醒でもしていればこれまで、そしてこれからいくら見られるか判らない十番隊隊長日番谷冬獅郎の笑えちゃう弁舌を拝聴することができたというのに‥。
「このような小咄において一番先に口を開いた者の台詞はテーマとなるのがセオリーだというのになんだこの扱い!俺は‥っ、俺は一体何のために生まれてきたんだぁ!」
「そこで自分の存在理由を問うに至るのか!?安心しろ少なくとも俺の頭皮を危機に晒すためでも明けて初めの恋噺を提案するためでも花を咲かせるためでもない!しかしそう、お前の疑問のひとつには答えてやろう!」

 十番隊隊長を抱き抱えた一護は天井を仰いでいた。場所が場所なら(そう、例えば教会だとか祭壇のある場所がいい。しかしこの際道端でもいい)感動的にも捉えられただろうが、絞め殺さんばかりの拘束を渾身の力で破って十番隊隊長は一護と見詰め合った。ここでまた正常の思考を残している者があったならば彼らのためにムーディーなオペラでもチャペルの鐘の音でも幻聴に聞いただろう。実際は険呑この上ない状況であったが。
 兎にも角にも男の胸で圧死なんて笑うどころか泣ける冗談に被害者になろうとしていた十番隊隊長は渾身の力でもって一護を引っぺがした。そして眉間に刻まれた皺が男前な十番隊隊長はのたまったのだった。

「一般のセオリーさえ守れない奴が見切り発車でこの小咄を書こうとしたからだ」

 納得した一護はその体勢のまま眠りに落ちたという。








***
マジすんまっせん。

2007/01/06  耶斗