悪夢だ。 窓際の一番後ろの席。生徒からも教師からも目につき難い好条件のその席にうつ伏した少年の肩が小さくはねる。組んだ腕に隠した顔は授業開始から一度も上がっていない。同じ窓際の一列に座る者たちに潅ぐ陽は暖かで、それでなくとも淡々と流れる教師の朗読に生徒たちは舟をこぐ首を必死で支えている。沈没している者も少なくない。だから彼もまた、熟睡している者たちのひとりだろうと誰もが考え、放っている。 内腿の皮膚が引き攣るようだ。机の脚に阻まれて、開く幅など知れている。力を篭めすぎて机、椅子を揺らさぬよう、それでなくとも身体が震えぬよう声を漏らさぬようと堪えに堪えているのに。 (一体‥なんのつもりなんだ‥っ) 声を限りに罵倒してやりたいが、場所も場所なら状態も状態だ。声を張れるかどうかも怪しい。 いくら‥、いくら他の人間達には見えないからって、白昼堂々、しかも教室の中、授業の最中に。 (どうすりゃ‥いいんだ) Yシャツの袖を強く掴んで二の腕に爪を立てる。授業は残り何分だろう。開始と共に現れた男の所為で時間間隔は完璧に狂っている。腕時計をなんとか風情で覗き込んだ一護はがっくりと沈み込む。力は抜けないが。 (悪夢だ‥) 確かにこの授業はこの体勢で寝ようと思っていたけれど、眠りには落ちずに悪夢を見ている。目の醒めるような悪夢を。 瞼を閉じれば引き摺り落とされそうで、机の目地を睨みつける。唇を噛む強さの分だけ身体が震えるとしたら、他にどういう手段をとればいい。 「‥っ」 膝が跳ねる。机の底を蹴り上げそうになって、一層力を篭めて抑えつける。こんな場所で達っするなどできるわけないのに。周りをクラスメイト達に囲まれているという状況では尿道さえ閉じてしまう。けれど快感を殺すこともできない。極度の緊張の中で一護は、パンツから己を取り出され、弄られ、舐められ、咥えられるままどうすることも出来ずにいる。 (どうしろってんだよっ!!) 机に阻まれ、その下にいる男を睨みつけることも叶わない。ずるずるという音は他の人間には聞こえないだろうか。擦られながら吸い上げられて、荒らぐ息は腕の中に隠せているだろうか。涙が眼を焼く。 「一護」 男の囁き声。なぞる吐息に肌が粟立つ。 「イけよ」 (出来るわけねぇだろう!) 一層、二の腕を握る手に力を篭めて。腹に力を入れて。下半身を切り離せないかと必至で感覚を断とうとする。答えないし、応える気配もない一護が詰まらないとでもいうように、男の手が些か粗暴に一護自身を手の中で捏ね繰った。 「‥っしろ‥」 我慢、出来ない。出したい。出す。でも出来ない。 肩を突っ張る。胸が上下する。誤魔化せているだろうか気付かれていないか。教室の空気は正常か。清浄か。 (駄目だ‥気が遠くなる‥) 視界がぼやけて、何もかもがどうでもよくなる。達ってしまうか?達ってしまうか。 (誰かこの悪霊をなんとかしてくれ!!) *** 日番谷隊長はどんだけ小さいんですか。 (不可能なのかそうでないのか現役離れた人間にとって教室はファンタジーです) 2007/02/05 耶斗 |