大好きなんだ大好きなんだ大好きなんだ堪らないんだ!! 「だから殴らせてくださいお願いします!!」 気分は荒野の一騎打ち。腰にはリボルバージャック2丁。砂煙が二人の間を流れていく。乾いた風、灼熱の太陽、額に浮かぶ汗の玉が米神から眼の淵へと伝い落ち眼球を焼く。睨みつける先には男が一人。小柄というよりもまるきり子供のそれであるが、眼光ばかりは重厚な野獣の存在感を思わせる。どこかから笛の音が聞こえると思えば、それは風の音だ。高く低く啼いて、土煙を巻き上げる。男の緑の目は逸らされない。真っ直ぐに彼へと向けられて、後ろへ引かれた肘に浮く指先は腰の銃を狙っている。引くか、抜くか、 (撃つか―――――…ッ!!) くわっと刮目したときだった。男の溜息が現実のさわやかな風を呼び戻したのは。 「相手はしてやるから、とりあえずここに座れ」 そう、舞台は屋外ですらない男の私室、畳の部屋。一護が立つのは板敷きの廊下、敷居の前。右手は叩きつけるように開け放った障子の木枠へ押し付けられたままだ。しかし変わらないものが唯一つ。彼の覚悟を宿した二つの眼、冬獅郎を凝視する必死めいた双眸。 「一護、悪かった。放っておいて。ほら、来い」 男の周りには敷物のように広がる紙、紙、紙。連なる文字が何を意味するかなど一護には正直さっぱり分からないが重要な書類であることは検討がつく。予想がつく。だからこそ今まで立ち入らずに来たのだ。今まで我慢していたのだ。 押し開いておきながら尚も躊躇に足が進まない。招かれても一護の分別が遠慮させる。 「一護」 両手を開く男が招く。馬鹿にして、と一護は思う。そんな、子供騙しな手で懐柔しようとしやがって。 けれど一護の身体は意志と反しておずおずと敷居を跨ぎ、畳の目を潰すように男へとにじり寄っていった。ふくれっ面は不愉快を盛大に表して男と視線を合わせないが、背を向けないなら意識がどの一点に向かっているかなど明瞭で。 「寂しい思いをさせたな」 「うっせぇばかやろ…平気だちくしょう…」 ぽふりと男の胸に顔を埋めた一護は、身長差のために小さく小さく蹲らなければならなかったが、彼の気分と照らし合わせれば丁度良かっただろう。 「丁度休憩しようと思っていたところだ。昼寝に付き合ってくれるか」 「誰が付き合うかテメェ一人で寝やがれ俺は勝手に寝るからな」 ふ、と笑った男は早速ずるずると正座した足を崩して己の膝に懐いた少年を見下ろし、自身もまた広げた書類を潰さぬよう畳へと身体を伸ばした。 ('09/06/08 耶斗) |