掻き抱く銀色の




 繋がったままの身体が気だるくて、背中に被さる男をどかそうと腕で催促した。
「んだよ。足りなかったのか?」
「ちげぇ‥っ、どけって意味だよ!」
「なんだよ。珍しくお前から誘ってきたから甘やかしてやろうとしてんのに」
 不満げな声が揶揄かうように耳殻を擽ぐるのに言い返す言葉も飲み込まれる。そうして、耳の後ろに唇を押し付け汗ばんだ肌は離された。
「ん‥」
 粘着質の体液を纏って引き抜かれた肉の感覚に、知らず甘えた声が鼻から漏れる。
 羞恥に、一護は枕へ顔を押し付けた。
 男の、哂う気配がする。
「哂うな。バカ‥」
 枕に押しつぶされた声も拗ねた子供のそれであっては男の喜笑をさらに招くだけだ。
 しばらくそうして、一護が不貞腐れる時間が流れた後、男は笑いの余韻を残しつつも気遣わしげに一護のしっとりと濡れた髪に指を差しいれ、撫ぜた。
 その柔らかな仕草に身体を包んでいた倦怠感も助け睡魔にとろりと瞼を閉じる。
「一護‥?」
「んー?」
「今日は‥どうしたんだ?」
 誘ったのは、確かに一護だった。
 滅多にないというよりもこれが初めてのことであったから、冬獅郎は戸惑いながらも何を質すことなく応じたのだけれど。
 自らの腕に抱かれながら、どこか遠くを想っているような。
 そんな一護に行為の最中もずっと釈然としない思いを抱き続けていたのだ。
 しかし黙してしまった一護に、冬獅郎はひとつ溜息をついて、萱草色の頭から手を離した。
――――まだ、俺のものにはならないか
 ともすれば、後悔しているのではないのかと。そんなことを考えては独り、どうしようもない不安に懊悩する。
 薄い茶色の瞳が映すのも
 ほの紅い唇が紡ぐ名も
 細い、少年の指が伸ばされるのも
――――本当は、俺じゃないんじゃないか‥?
 それが恐ろしくて、冬獅郎は一護の部屋、ベッドから足を下ろし、横たわる少年から目を逸らす。
 気だるげな手つきで散らばる衣服を引きよせて、何とはなしにシーツの上へ重ねていく。
(皺になってやがる‥)
 脱ぐときに留意しなかったのは己であるが。それにしたって今夜は余裕が無さ過ぎた。
 いつもは、其れほどまで――あからさまな――皺は作らないのだ。
 そんなささいなことにまで苛立ちを覚えて、その馬鹿馬鹿しさにまた嘆息する。
「とうしろう‥?」
 服に逸れていた意識を呼び戻されて、冬獅郎はゆるりと一護を振り返った。
「どうした?」
 怯える子供を宥めるような優しい声音に、一護は腕を絡げた枕を抱きしめる。中の綿が引き絞られるような皺が、寄った。
「好きだから‥」
 どうしようもなく、好きだから。
 言外の言葉を冬獅郎が聞き取ったかは知らないが、一護のどこか必死な背中に、冬獅郎は目を細めると
「分かってる」
 みを屈め、その背の、心臓の上に唇を落とした。
 そして、強請るように脇腹を撫で上げられ、一護は振り仰いだ冬獅郎の瞳に情火をみる。
 もう一回
 瞠目する一護に謝るように哂いながら。冬獅郎の強請ったキスは与えられた。


 アンタが、どうしようもなく好きすぎて
 好きが、過ぎすぎて
 逃れたくて 仕様がないんです。

 だから捕まえていてくれと
 離れられない楔をくれろと
 願っては、祈って



 銀色の頭をかき抱く。






20050717の日記より

2005/08/19 耶斗