綺麗な顔だと思った。稀に見る美少年だ。しかしながらその世界において見た目年齢と実年齢は甚だしく一致しないので、その表現が相応しいかどうかは分からなかったけれど。 陶磁のような白い肌が陽により白く映えるのは、素直に美しいと思ったのだ。 融け消えそうな雪白の、燃え立つような氷の焔。例えて曰く、天の覇者。 心にひとつ残った未練というなら、まさしくそれがそうだったろう。 (それは、蒸留した泪のように清廉な) 長く生きた分だけ変容した眼が溶解したかと震えが走るほどに鮮烈だった。 陽に焼けた肌と陽に焼けた髪と陽の、融け込んだような魂と。 世界が丸ごとごっそり引っ繰り返るような不安感と恍惚感。どちらに比重が傾いていたかでその時の己の世界観が覗けるだろう。 宿命(さだめ)に産まれ、運命に生きた濁流の一葉。紅く色付き落ちたアポトーシス。無関心を装って無遠慮に無防備に 例えるならそう、太陽の落胤。 この世にひとつ残していくというのなら、まさしく彼がそうだった。 (泪に浸け込み守った屍 ゆらり、ゆらゆら揺られて泣いて 泪呑み乾し目覚めた屍 ゆらり、ゆらゆら恨んで泣いた) 寄り添うように側にいた。けして交わることない道を歩んでいたけど。 熱分け合うように共にいた。けして触れることなく見詰めていたけど。 どこよりも夢に近い世界だったから、其処に存在するもの全て朧で不確かなものだったから、壊してはいけない、脆く儚いものだったから。 己を愛するように、それを愛した。 触れる代わりに見詰めることを 見詰める代わりに想うことを 許されることだけ望み続けて 愛しさだけに生かされる。 痛みも苦しみも恍惚も。すべて愛しさが支配した。 愛しさに、殺されるたび生きていると知らしめられて。 時を忘れた世界の中で 時を失くした世界の中で ただ一度きり、時計の針の止まる音を聞く。 脈動の、確かに途絶える音に狂う。 未練というならまさしくそれが 遺していくならまさしく彼が (はらり はらはら 泪をあつめ ひたり ひたひた 屍ひたす) (Dolly!君を愛していたんだ!) 聞いた名前も呼べないままに 2006/10/25 耶斗 |