どうにもこうにも



この度また破天荒な男は奇妙奇天烈な奇行を行った。



「なぁ、‥たのしいか?」
 棒読みになるくらいうんざりしている一護の膝を、ぴったり合わさるように抱きしめて顔を埋める小さな頭。心なしかいつも元気に広がっている髪もくたりと項垂れているようである。
 居た堪れない。この一言に尽きる。
 何だって午後寝を約束された休日の早朝、叩き起こされたかと思えばベッドの上に正座を強要されなければならないのか。それも寝惚けていたためにあれよあれよと言いなりだ。情けない。全くもって情けない!
「なぁ‥、おい‥、とうしろう‥」
 眠い。居た堪れないし眠い。居た堪れない気持ちも眠気には負けそうだ。忍耐の意識とは裏腹に頭の重さに首が堪えられなくなっている。眠い。眠いんだ。
 変な男だと思う。日番谷冬獅郎は変な男だ。トリッキーだ。第一印象じゃあ死神の中でも常識人のトップクラスだと思っていたのに。全く持って奇妙奇天烈理解できません。
「あ、今嫌(や)なこと思い出した」
 思わず独り言も零れちゃうってもんだ。無防備に仰のいたものだから変な具合に喉が絞まった。
「『一護は人の外殻剥いじゃうのよねー』だって。乱菊さんが」
 そうか、なんだお前。
 思いついたとその一瞬だけ輝きを持った眼で一護は
「お前、甘えてんのか」
 だからってなんで俺?
 首を傾げて見下ろした後頭部に男の表情が見て取れるわけもなく。一護はなんとなく悔しい気がして男の左耳を引っ張った。思いのほか簡単に転がった男の頭にくっついた幼い顔は
「寝てんのかよテメェ‥」
 俺を叩き起こしといて!
 目の下に濃い濃い隈を貼り付けていたから、感情のままに張り飛ばすこともできなくて
「乱菊さん。一番の要因はアンタの手腕にあると思う‥」
 そろそろ痺れてきた足と限界の脳味噌で、ここまで上司を酷使する部下がいるのだろうかと翳み行く視界に思った。







2006/09/28  耶斗