川縁には身を横たえるに十分の広さをもつ平らな岩板がいくつかあった。そのひとつに男は一護を下ろし、一護は肌蹴た男の胸を受け止める。仰け反れば頭の先に途中で放り出していた己の刀が草の上に寝そべっているのが見えた。
 解かれた帯が左右に広がり、岩の淵から水面へ垂れて水流に洗われるたびまた新たな流れを生んだ。一護は男の為すがまま、膝を立て、足を開き鼓膜を水に濯ぎながら這い登る甘美感を追った。忘我への途を辿った。
「‥、し、ろう‥」
 一護の手に、腕に撫でつけられた男の髪も水気を含みしっとりと大人しくなっている。高い鼻梁が時折胸を掠め、吐息さえ肌を持った様に滑らかに一護の肌を滑った。熱い舌が掬うように胸の突起を舐め上げて、広がる痺れに一護は堅く目を瞑る。快楽を求めながら歯牙はそれを許すまいとするように喰い縛られる。
「ん‥ふ、ぅ‥」
 浅い呼吸のたびに艶めかしい吐息が零れる。男の手に擦りあげられて一護のものはそそりたっていた。
 岩の上に片膝だけ乗り上げた男は一護の両手が髪に顔に縋るのを好きにさせ、色づいていく肌のために丹念に撓る身体へ触れた。柔く押し、表皮を掠め、一護の身を捩る様を確かめた。視覚を聴覚を嗅覚までも凌駕せんとするような。
 先端を親指の腹で潰すようにして浮き出た先走りを搾ってやれば、甘すぎる痺れに耐え切れず腰が撥ねる。咎めるように縋っていた一護の指が夜の下、蒼色の髪を握る。そうして触れるか触れないかの掌は弱く。一護のものは震えて訪れない果てに焦れる。意識しない泪が目尻からいくつも伝い落ちた。
「‥ふ、は‥っ、はぁ‥ん」
 理性の箍が瓦解していく。それを留めようとは思わない。望んでいる己がいる。幾度か男を受け入れた其処が疼いて、猥らと知りながらも脚をさらに開き、直ぐ側にある男の指を望んだ。なのに気付かぬふりをする男に一層焦れて、浅ましさも恥辱も忘れ岩板へ乗り上げた男の大腿へ、脇腹へ、己が内腿を擦り付ける。脱いだ袴が腰の下で皺を増やしていく。
「冬‥獅郎‥ッ」
 吐精感が恋しくて、堪らず一護は目蓋を開け男へ首を擡げた。石の硬い感触が浮き上がった貝殻骨を押し返した。天(そら)を背に、深みを増した翠玉が一護を見返し、視線が絡んだ一瞬に男の節くれた長い指が後孔へ突き入れられた。中指の一本。その長さを知っている。
「んぁっ」
 視線が弾けたように一護は仰のいた。咽喉を引き攣らせ波をやり過ごそうとしたが直ぐに抜き取られたそれに甘い痺れの余韻を舐めつつ目で問えば、何の前触れもなく指が其処を貫いた。
「んふ‥ぅ‥」
 唇を噛んで甘美感に身を縮め、問う視線を外さなかった。男のそれと絡めたまま、抜き取られない指が内壁を侵し始める蠢きに男の意を理解する。だから一護は間断なく、律調もなく生み出されては脊髄を這い登る快感に下唇を噛み締め目をぎりぎりまで眇めても、交叉させた視線を繋いだ。
「ん‥、ぅ‥うぅ‥っ」
 水の膜で視界が滲む。それさえ男は許さないのではないのかと、思うから目を瞬いて泪を押し出す。男の指が増やされてやがて4本咥え込むまでになったなら、待ち望む質量を与えられると一護は憶えている。自ら肉壁は解れようとするほどに、とうに身体は馴れていた。
「あ‥っ、ぁ、は‥、とう‥しろぉ‥っ」
 鼻にかかった、まるで甘える声色を頭の隅まで押しやられた自我が聞く。男の指にしか届かない性感帯を擦られ突かれて、涙腺の壊れたように泪が零れる。舌が踊る、指が強請る全身で、乞う。乞う、乞う、乞う。
「はや‥く‥‥ぅ‥」
 男の頭部を捧げ持つように、後ろ髪を絡ませ項に差し入れた両掌が口付けを求めて引寄せて
 喰いあうような唇の交わりを繰り返し、繰り返し、息つく合間に冬獅郎が哂った。
「可愛いじゃねぇの‥今夜は」
 珍しい、口蓋を舐め上げれば潤んで熱に浮かされたような目が
「い、んだよ‥今はっ」
 内を侵す4本の指に押し広げられる甘い痛みと波紋に息を途切れさせながら答え
―――誰も、見てはいないから
「月も、見てない、からあぅ‥――――――ッ、‥‥っ」
 言い終える間もなく抜き取られた指の変わりに充実したそれが押し込まれた。
「可ー愛いこと言っちゃってー」
 たまにはいいね
 大きく開いた膝の間に身を沈め、脳天を貫いた衝撃を堪え身を震わす身体を胸の中に抱きこみながら男はそう、密やかに声を落とした。声帯の震えを瞼の側に拾って一護は、それが心地好いと思った。
「‥は、はぁ‥」
 星の散る様な視界で男は笑んでいる。いつもの、人をやりこめた後のような、満足そうな悪童の。誰をも平伏させるだろう強い両眼に今ただ一人、己を映して。
 波をやり過ごし、一護は首を伸ばす。歯を立てて男の薄い唇を攫って
「はやく‥動けよ‥っ」
 目は開けられないから、待っている男の首にしがみ付いて挑発するよう腰を擦り付けた。






2006/11/22  耶斗