三千世界の鴉を殺し






君を殺す覚悟はないよ。
君に殺される覚悟ならあるけれど。


背後を振り返れば死神たちの都がある。空から見下ろすそれは白蟻の遺跡のよう。
魂の調節者としての死神たち。そんなものが果たして本当に必要なのかと偶さか思いに囚われはした。


生きるために理由を探すのだ。
生きているから理由を探すのだ。



正面へ向き直れば剥き身の刀をぶら下げた異形の獣。靡く山吹、胸の孔。黒耀の眼に金の瞳、仮面を持たない虚の化身。揺るがない立ち姿は三千世界の王のよう。


君に出会って君が生きる理由になったけれど
生きる理由は死ぬ理由にもなるということを僕は今になって理解する。



右手に握る刀が酷く重い。
跪いて君に捧げたいほど重荷になるなど考えもしなかった。


君を失ってまでこの世界を守る価値があるかと問われても答えられない。
けれど
君を喪ってまで生きる意味は僕にない。




望めるなら

最後に君とキスがしたい。









('09/07/13  耶斗)
死神の衣装は鴉に見える。