不健全だなぁと思う。 こんなものを溜め込んで、不健全だなぁと。 どうすれば吐き出せるだろう。言葉にしただけで解消されるだろうか。ダメだ、君が、真実分かってくれなければ叶わない。俺は強欲なのだ。欲深く、傲慢だ。 君が好きだ。好きだという言葉を俺ほど凶暴なものに変えられる男もそういないんじゃないかと思う。だけども愛してるだとか、愛しいだとかそんな言葉には換えられないのだ。何故だろう。単純な言葉こそ伝わりやすいとでも考えたのだろうか。 君が好きだよ。 すきだという唇の動きでまた、俺の心を伝えられはしまいかと思案する。すき。口をすぼめて、それから歯を合わせて。ああ、韻を紡ぎだす作業さえ尊いのだ。 恥らっているかもしれない。柄ではないけれど。全く持って俺の柄ではないのだけれど。 俺は君の前に立つことも、君の瞳に映ることも、君の声が届くことさえ恥かしい。恥かしくて、逃げてしまいたくなる。逃げてしまいたくなるくせに、君の側まで近づきたいと願うのだ。なんて矛盾だろう! 俺を見ないでくれ。俺を呼ばないでくれ。俺に手を、差し出さないでくれ。その、広く、優しい手。 俺が絶対の殻を被っていられるうちにどうか遠くへ行ってしまってくれ。俺がどれだけ追っても探しても、届かない場所まで逃げてくれ。 ココロ、が、錯乱する。 感情、は、錯綜する。 君を大切に護りたいのに、俺の心を分かってくれないお前を滅茶苦茶に傷つけてしまいたい。 男は自らの身体をかき抱く。皮膚に爪たて血が滲んでも、垂れて流れて紅の軌跡を描いても。納まらないから肉まで抉る。痛覚はなんら抑制の力になりはしないのだ。 床に額を打ち付けて、息苦しさに喘いでみても、それが抑止に繋がりはしないのだ。 男は唇でかの人物の名をなぞる。声にし呼んでしまっては、かの人物を汚してしまいそうで、綺麗なまま陽の下にいるかの人物を落ちない泥にまみれさせてしまいそうで、畏しいから呼声の真似をする。それでも穢してしまいそうで、呼気に誤魔化し紛らせる。 名を呼ぶことすら憚るほどに、お前を護りたいとこのココロで想っているのに。 お前が俺ではない誰かをその眼に映すことさえ、とてつもない憎しみで厭うている。 どうすればいいだろう、お前がいるべきはそこもとの光の下だと分かっているのに、同じく、引き摺り下ろすことも出来ると俺は知ってしまっている。どうすればいいだろう。 俺はお前を祝うことも呪うことも出来るのだ。自由とは先にある戒めを誤魔化すまやかしだ。俺たちの目を眩ませ判断を鈍らせる。選択の自由など、本当は存在していないのだ。 あぁ、お前を護ってやりたい。他の者たちならただお前を慈しむことが出来るだろう。俺のように、貶めたいなんてそんな、正気の沙汰を疑うような真似 狂っている ‥狂っている 頭がぐらぐらする眩暈もする物象が定かじゃない床が波打っている。 お前を胸に抱いている錯覚すらする。 肉の感触、熱の温もり、四肢の重さ あぁ‥狂うのか 諦めか受容か、このまま君に触れずにいられるならどちらでもいい。腕の中の夢だけで俺は満足なのだ。これが狂気と呼ぶものならば俺は喜んで迎えよう。 君を護ることも穢すことも、どちらも許されている俺だから。どちらも選ばぬまま霞となって消えてしまえ。 君よ、幸いであれ。 [黒い太陽] 2006/03/28 日記 2006/04/19 掲載 耶斗 |