恐怖だった。 長年思いもしなかった疑問を初めて問う。 人間、お前達は何故自分以外の誰かを好きになるなんてことがあるんだ。 死神の生は長くて。それこそ長くて。人間たちがいうところの”永遠”に近い”時間”の”中”を存在し続ける。神経も精神も磨耗して、一時の退屈さえ過ぎれば発狂しそうな(否、すでに狂っているのかもしれない。主に時間感覚とか)永い時間。 例えるのも馬鹿らしいが、時間を紐に例えるとして、その瞬間俺は俺の時間がぐるぐるのぐちゃぐちゃに絡まってしまったのを知った。平坦な時間の上に存在する平坦な俺の感情。撫で付けて磨り減らして起伏をなくした完璧に平らな俺の精神。長年の鍛錬と誤魔化す積もり積もった退屈の諦念。それが一瞬のうちにガタガタだ! 何故存在するんだろう!現れるんだろう!よりによって俺の前に!! 現れなければよかったのに出会わなければよかったのに俺が世界という世界から欠片も微塵も消え失せるその時まで! 何故出会ったんだろう止められなかったのだろう。俺は俺を制御しきれていなかったなんて!何故俺の望みを俺は把握して聞き入れてくれていなかったのだろう。 声が失せた。呼吸(いき)の仕方も忘れた。どうやら肺は自ずと活動してくれるようだ。目の神経がイカレた。動いてくれない。瞼を下ろすことも出来なきゃ網膜に映る像を遮断する術なんて知らない。唇が戦慄く。叫びにだか嘆きにだか吐息にだか。鼻腔に染み入る匂い全てに色がつき甘く馨って正気が揺らぐ。揺れる、ゆらゆら、ふわふわ、消えそう。 それでも硬く冷たく沈みこみ続ける鳩尾に溜まる恐怖。胃が重くて、心臓が必死になって血液を送り出す。あんまり頑張ると破裂してしまう。脳が肥大してるように頭がぼんやりしている。気を失いそう。(正気はとうに失われただろうか) 恐怖だ。恐怖。恐怖でしかない。 今、お前達人間に問う。 あらゆる世界に散らばる存在という存在に問う。 何故意識あるもの皆一度は己自身以外の存在に己の存在意義を凌駕されることがあるのだろう。 (そして何故俺の場合それがこんな形なのだろう) 今、死神諸氏に問う。 お前達永久の時間を許された者らにたった一人の存在が現れたなら、一体どうすればいいだろう。 2006/09/24 耶斗 |