目の前の、銀糸の髪に手を伸ばす。 彼にはそれだけしか目に入ってはいないから。 [Forget-me-not] 艶もつ吐息が男の劣情を煽る。今このとき、確かに男は『勝って』いる筈なのに。 己の下で喘ぐ項は男の劣等感を刺激する。 鮮やかな彩は変わることなく。年月を経てなお強く。 それをこの手に組み敷く権利を得たというのに。 ギンは一護の身体を穿ちながら、舌を苦める唾液を飲下した。 律動に合わせ、ギンの細い髪が頬に張り付いたそれらを掠め細やかな音をたてる。 忙しない呼吸音と、滑る細糸の楽。一方で酔いながら、一方で醒めている。 呑み込まれてしまえば、ギンは真実幸福になれるだろう。けれど同時に愚者になる。敗北に浸り、甘美を啜る。賎ましく、哀れな、狗だ。 愛おしい 狂わしい 呪わしい ――――お前が、怨めしいわ‥冬獅郎-- 情欲に忠実な下肢はそれでもギンを高みへ至らせてくれる。思考も緊張も放たれるその一瞬だけが救いだった。 だから、とうに情人への気遣いなど忘れ 前戯もほどほどにギンは己の快楽を追う。 それでも一護が悦んでみせるのは、自分をあの男とみているからだ。 ――――まったく、恨めしいわ、冬獅郎 その名の通り、雪原に立つ孤高の獅子 その眼差しで魅了した子供は死神になり、お前と共に生きた。 ならば連れていけばよかったのだ。 まっこと愛しているというのなら 生きる孤独より、心中する至福を与えてやれ ――――それでも僕はお前のほどこしに感謝しとる ギンは細めた眼球を焼く痛みも眦から流れる滴も、己の額から滴る汗だと、いっそう深く一護を穿った。 「ああ、あ‥」 褥を汚す唾液も精液も涙、も。ただギンの哀れと遣る瀬無い怒りと苦みを湧きたてることしかしなかった。 一護は夢をみる。 あの日忘れた夢をみる。 「とう‥しろ‥」 何を忘れた夢なのか。 背後からしか抱いてくれなくなった愛しい男を、けれど振り返ることはない。 冬獅郎‥ 全て、覚えているから‥ 狂気は甘く、安らかだった。 2005/06/19 日記 2006/04/19 掲載 耶斗 |