女らしくない腕ね。 袖をたくしあげてそれをむき出しにした乱菊は、長く刀を握り続けたために随分と逞しくなってしまった腕を見て心ならずも気落ちした。 戦う力を得るのはいい。 得た力が増すのもいい。 もはや目的も理由も変容するほど長い間刀と添い続けた。彼‥彼女の認める身体がこれだったというのなら願ったり叶ったりだ。 斬魂刀は持ち主の半身だけあって執着心も独占欲も強いのではないかと乱菊は思う。心通じ合う唯一の”外”の存在なのだ。異なる世界に住まう者に興味を抱くのは、なにも人間的存在ばかりではないということだろう。仮に思念体という言葉を用いるならば、我々も、人間も、そして彼ら刀の化生たちも同質なのだ。 「嫌だわ。このままいくと女らしいとこなんておっぱいだけになっちゃうじゃないの」 腰元の刀を抜き取り陽に白刃を翳してみる。閃いて光線が奔る。まともに網膜を突き刺されて思わず顔を顰めて直ぐに、アンタの所為じゃないわよ、と弁解したことに呆れた。 「嫌だわ〜‥、あたし独り言云っちゃうタイプじゃなかったはずなのにー」 嫌だわ。 嫌だわ。 「灰猫」B 今度は目に入らないよう刃に光を遊ばせながら、細めた目に眉を持ち上げ、口をへらりと笑わせた、侮るような表情にも似せて 「アンタいつになったらアタシに落ちてくれんのよ」 やっぱアンタ女なのかしらね〜。 扱いが難しくて困るわと、応えなんて期待しない乱菊は云い終わったときには灰猫を鞘に戻していて。 「筋骨隆々になるなんてヤダわ」 今でさえ勇音とはりそうなくらいだってのに。 でも構わないの。この身体ごと証明になるというのなら。 「昇格試験、は」 頭の後ろで両手を組み合わせて背を逸らせば 「隊長との一騎打ちを願おうかしら」 軋んだ筋肉(ばね)に悪い提案じゃないと思った。 2006/08/29 耶斗 → |