烏が夕暮れ、赤い空に飛翔して それを仰ぐ彼女はまるで空に落ちていくような心地だった。 空に消えた貴方を想っています。 空に上った貴方の姿を私は見てはいないのですけど それはきっと何者にも追い縋ることのできない尊い姿だったでしょう。 黄金色の雲が棚引いて、朱に染まりながら千切れている。紗の雲を透かして空は紫紺に移りゆく。頬に吹きつける風が微温(ぬる)くて、背が粟だったのは言い知れぬ感動だったか恐怖だったか。 少女は胸の前に両掌を組み合わせ、祈るように彼方の空を凝眸している。黒々とした眼は見開かれて、夢見るようでも狂うようでもあった。 私は夢想する。 今にも貴方が私を迎えに来てくれること。 使い捨ての駒としてでも私を必要と仰っていただきたいのです。 勝手な女と詰ってくれていい。 いつか、女になることを畏れていた私もとうとう女になってしまったから。 無情な女と批難してくれていい。 誰の声も私の情愛を止めることなど出来ないのだから。 愛しています。尊敬しています。崇拝致します。 神も死んだこの世界で、唯一の光は貴方なのです。 灯火ほどの灯なら要らぬ。ただ鮮烈な焔が欲しい。(この身を焼き尽くすほどの業火こそ私に相応しい) 己の行く末を知らず 訪れる終焉の謳(うた) 美しい胡蝶になれないならば、毒を撒き散らし灰へ飛び込む蛾(ひむし)にこそなれ 他の者らはどうでもいいの。貴方の腕(かいな)に抱かれるならば どの者の目も潰し咽喉を焼き、呪いの嗄れ声を哂いながら 貴方の火に焼かれるの 投げ出され、叩き落されても この身の末端まで灰に変えてもらえるまで 貴方の足下へ這いずっていくの だから翅もいらないわ 脚も手だって要らないわ 芋虫のように身体くねらせ貴方の元へ辿り着くわ 嗤ってくれていい。私にはあの人しか見えてはいないから。 2006/06/10 耶斗 |