どうしようもなく醜く穢いものですから
いっそ、枯れてしまった方が綺麗です。




「藍染」
その人の声を、声音を、響きを知っている。
「藍染、ちゃんと起きてるのか?」
その人の手を、指を、白い肌を知っている。
「藍染、」

覗き込んでも目の前で手を振ってみても、諦めて身を反らせ、呆れた溜息を落としてみせても

「藍染」

反応がないからいい加減腹も立って、我ながら子供っぽいかもしれないと思いつつ両手を腰にあてて唇を尖らせた浮竹へ
漸く今まさに気がついたといわんばかり、眼鏡の奥で彼の眼は笑んで
それがあんまり泰然としていて、微塵も自らの粗相を疑ってなどいないようだから

「浮竹さん?」

やっぱり子供っぽいかもしれないと既に羞恥さえ覚えつつ
背を向け離れて行く怒っているらしい背中に面食らったような声を上げる少しだけ年下の同輩の制止にははんなり笑いを噛み殺した。

「人が悪いですよ、浮竹さん」

参ったなぁと、追いついて浮竹の顔を見れば決まりの悪そうな顔で笑う彼を、浮竹は随分昔から好ましく思っている。



春が似合う人。
春の木漏れ陽、白くて暖かい陽だまり
雪白の絹糸艶やかに光を弾いて眩しくて
それでも見つめていたいから、目を細め眼苛む光に堪えていれば何時の間にやら夢心地 穏やかだなぁと藍染は思う。
暖かいなぁと、熱の届かぬ核を知って少しだけ寂しさも覚え
厭だなぁと、彼が自分から離れていくことも、自分が存在する世界から彼がいなくなってしまうことも、彼の側から己が消えてしまうことも、彼の目に己が映されなくなることも
全て、凡ての懸念が煩わしくて藍染は
自分に気付いて声をかけ、応えがないから近付いて、反応がないから顔を寄せ、瞬きの音さえ聞こえんほどの間際で覗く深緑と陽の下白さに赤味の差す長い指が振られるのとを飽きない眼で搾取して
「藍染」

「藍染」
とその唇から紡がれる音の甘さに目が眩み
怒ってしまったらしい背中をやっぱり一拍置いてから意識して
慌てて追いかけはにかむのだ。



どうしようもなく醜く穢い人だから
いっそ手折って散らしてやるのが慈悲だと思うのだけど



「貴方を失うのは嫌だなぁ」
「何だい?藍染」
いいえ、と微笑んで返す藍染はずっとそれを出来ずにいる。










2006/06/17  耶斗