梨ちゃん
     と
     子ちゃん





私達は双子だから。

分からないことなんて無いの。




夏梨ちゃんは綺麗になった。
今年、高校一年生になった私達は、兄と同じ高校に通っている。双子は同じクラスにならないなんて誰が云ったんだろう。私達はずっと一緒だ。生まれたときから一緒だった私達は、保育器も一緒で、ベッドも一緒で、幼稚園からずっと同じクラスで。
高校生になっても同じクラスだ。

夏梨ちゃんは前の方の席にいる。前から3列目、教室の真中の辺りにいる。私は窓際の後ろの方で、暖かい陽に眠気を誘われながら夏梨ちゃんを見てる。青くて濃い空は白い雲に切り取られ、梢が落とした影はぼやけることなく黒くて。夏が近付いている。
乾いた風が吹いていて、今は肌もすべらかだけど、もうすぐじめじめした梅雨が来る。雨は嫌い。母さんが死んだから。

最近綺麗になった夏梨ちゃんの理由を私は知ってる。夏梨ちゃんが真黒で綺麗な髪を伸ばしてる理由も知っている。小学校6年生のときに仲良くなった観音寺さん。昔私は霊能力者だっていう観音寺さんのファンだった。今ではたまにテレビに出るくらいで、何のお仕事をしてるのかは知らない。観音寺さんはテレビで人気だった頃から変わらず奇抜な格好をしているけれど、それを解けば渋くて格好いい人だった。あんなの只の変人だって夏梨ちゃんは云うんだけど、その表情(かお)が照れてるのを私は知ってる。

夏梨ちゃんは髪を伸ばした。髪を伸ばした夏梨ちゃんは綺麗だ。男の子と一緒になって、男の子の遊びをしていた頃と全然違う格好をするようになった。スカートをはいてる夏梨ちゃんは可愛くて、綺麗で、格好いい。夏梨ちゃんは遊子の方が女の子らしくて可愛いって云ってくれるけど、私のことを可愛いって云う夏梨ちゃんはどこか羨ましそうに恨めしそうにむくれるから、私より夏梨ちゃんの方が可愛い。あんなに自分のことには無頓着だった夏梨ちゃんが、自分をどう見せるかで悩むようになったのは可愛いし嬉い。そして、少しだけ寂しい。

夏梨ちゃんを好きだっていう男の子、結構いるの。相談されるから知ってる。全然話したこと無い男の子が突然話しかけてくるのにも慣れた。入学してまだ一月と少しなのに、夏梨ちゃん、一体何人の男の子に告白されたんだろう。
夏梨ちゃんの活発な性格は変わらないままだ。男の子は活発な子の方が取っ付き易くて好きなんだと思う。でも駄目。仲良くなったって、それ以上夏梨ちゃんに近付いちゃ駄目なの。夏梨ちゃんには観音寺さんがいるから。年の差なんて関係ないもの。観音寺さんが全然気付いてなくたって構わないもの。夏梨ちゃんは観音寺さんと幸せになるの。結婚して、花嫁さんになって、幸せになるの。ウェディングドレスは私が作ってあげたい。夏梨ちゃんに一番似合うドレス作れるのは私だけだもの。
首が暑くなってきちゃった。陽も少し強くて、真白なノートに跳ね返った光が眩しい。先生が最初に板書した文字を消した。書き写してなかったのに‥。後で夏梨ちゃんに見せてもらおう。珍しいって驚かれるかな。

窓の隙間から草の匂いを含んだ風が入ってくる。教科書が捲れる。頬杖ついた私は今にも眠りそう。あと20分で授業は終わる。午後の最初の授業が終わって、あと2時間。夕食のメニューは何にしよう。夏梨ちゃん、何が食べたいかな。お父さんは何が食べたいかな。今度のお休みには、お兄ちゃん、帰ってくるのかな。
眠りそう。目蓋が重い。お日様は暖かくて、このまま寝ちゃっても平気な気がする。とろとろと視界が溶けていく。その中で、夏梨ちゃんの黒髪だけがくっきりと顕わだ。






2007/02/09  耶斗