――――よう、一護
恋次だ。振り返った先に相変わらずの赤髪を揺らしながら片手を上げた男が歩いてくる。久しぶりに会った友人へ最高の笑顔をとでもいうのか、無理をしているようではないが、どこか空々しい笑顔。
――――お前まだ独りなのか?そろそろ相手つくったらどうなんだよ
恋次はルキアと結婚した。60年前の話だ。最近二人が一緒にいるところを見ない。
――――ルキアか?任務だろ。ったく、お互い忙しくってゆっくり顔見る暇もねぇ
同じ隊なら少しは違ったんだろうがな。笑う顔はやはり無理をしているようには見えない。諦観のような達観のような。曖昧だ。
曖昧なのは、己の眼の方だろうか。
『子供(ガキ)でもできりゃあ違ったのかもしれねぇなぁ』今よりは深刻そうな顔で酒を呑んでいた男(恋次)の横顔を思い出す。酔えない酒をちびりちびりと舐め、冴えていく己を持て余しているようだった。
『俺たちは貴族じゃあねぇから。子供(ガキ)はできねぇんだ』
それでも側にいたいと願うのは
それでも証を産まない行為を続けるのは
(愛、だとでもいうつもりか)
妄執のようだ。彼らと、彼らと同じ戯れに興じる者たちは、皆口には出さず、倦んでいるように見える。ルキアも疲れているのではないだろうか。恋次との、誰ともとの関係を終わらせたいと望んで忙しくしているのではないだろうか。
――――ま、元気にやれよ
それはお前に云いたい言葉だと、来たときのように片手を上げて、追い越し去っていく背中を見送った。










('07/06/27  耶斗)