出来れば会いたくなかったなぁ、と一護は天を仰いだ。大袈裟な表現ではなく、彼は真実天にいるとされているらしい神様とやらを仰ぎたくて空へ視線を投げた。
 何故彼が目の前にいるんだろう。通学路を家に向かっているだけの健全な路(みち)は平和でなければならないはずだ。目の端に差した陽光の眩しさに眼を眇め、顔を元の方角へ戻す。空はまったく真っ青で、半ドンの補習から素直に家路に着くのを馬鹿らしく思わせる。方向転換してどこかへ羽を伸ばしに行こうか、しかし目下の問題を回避するに不自然ではない転換方向は見つからない。ただひたすら家々の塀が伸びていて、曲がり角は電柱の側に立つ彼から2本数えた電柱のところだ。
 何故、あんなものが現れるのだろう。数日前だか数週間前だか、いつからだったか忘れたが「あれ」は度々己の前に現れるようになった。それも、現れるだけで特別何をするでもないから放っているのだけれど。
 探っているのかもしれないな‥。
 一護は見つめてくる視線と己のものを合わさないよう微妙に逸らしながら、動作が自然に見えるよう四肢を動かす。ささやかな緊張が背にじわりと汗を滲ませる。
 あれは元来「みえざるもの」だ。
 長い経験で見分けはつくようになった。あれは生きていないものだ。だから関わってはいけないと、見えぬふりする一護は夏の太陽が髪を焦すような熱を感じつつ、米神を流れ落ちる汗の、背中を粟立たせる冷たさを意識させられつつこの日も平素に「その」脇を通り過ぎようと、通り過ぎることが出来ると考えていたのだけれど
「お前、見えてるな?」
 丁度肩が彼を越したところで、彼は顔の向きを変えないまま確信の篭もった声で哂い、一護は聞こえなかったふりも出来たかもしれないのに撥ねた鼓動に足を止めてしまった。そうすれば、「それ」はゆっくりと、一護にしてみればもったいぶるように、顔を振り向かせて
 一護の胸にも届かない小さな背丈の「それ」はしてやったりというような意地悪気な顔で笑んだ。
 やはり、鎌をかけたのではなく確信でもって彼は確かめたのに違いなかったようだ。
「‥‥お前‥何者(なにもん)だよ‥」
 直ぐには声を出せなかった一護が、振り向いただろうことは分かる右肘の位置にある顔へ振り返らないまま訊ねれば、「それ」はさも可笑しそうに喉を震わせて
「多分、お前が今まで見たこと無い類の幽霊だ」
「悪霊‥?」
「さぁな」
 半ば本気で、恐る恐るといった風に、訊ねれば鼻で哂った男に少年らしくむっとしつつ、それでも一度止まった足は動いてくれなかった。
「名前は‥聞かなくても知っているが、お互い一応の初対面ということを踏まえて自己紹介を交わしておこうか」
 偉ぶった云い様に何様だと眉を絞り、それで過度の緊張も緩んでくれたため言い返そうと後ろを向いたが
「俺の名前は日番谷冬獅郎だ。子供、お前が気に入った。俺のものにする」
「は‥あ?」
 開いた口が塞がらなかったし、お前も名乗れと云った男の言葉にも応えられなかった。
 なんなんだこいつ‥
 太陽は暑いし風はないし不快指数は高潮だし。
 見下ろした顔は全く理解不能だ。






 連想バトンでやった『人間』と繋がるような繋がらないような正直繋げたい同設定。なつもり。
 冬からいきなり夏なのは耶斗さんが単に季節設定忘れてたなんてことじゃなくて純粋に今夏が恋しいからです(苦しいよ)

1/15の日記に掲載
2006/02/15  耶斗