君の背中にみる夜明け






寂しい寂しい寂しい寂しい
寂しい寂しい寂しい愛(かな)しい


欠落した胸郭は何を抱いているだろう。何を守るのだろう。
微かに哭いて聞こえるのは風かそれとも君の虚か。
ぽっかりと空いてしまった胸を通して君の髪が靡いている。山吹よりも薄く、明るく。膚の色まで石膏の如く褪めて黒い眼球に金の瞳が冷めて見る。何者も映していないかのように凍りついている。死んだ獣のような顔で。

鎖骨から首の裏へと焔のような紅い鬣、異形の証であるかのように欠けた胸郭から六肢の紋様。君を縛り付ける鎖のよう。剥ぎ取りたいと思えば君を斬ることになるのだろうか。

身に纏うのはぼろぼろになった袴だけ。千切れそうな帯で片足は膝まで顕な襤褸布を繋いでいる。死装束としての黒い着物は最早無い。死を送る者としての喪服も無い。
嘆きを知らぬ超越者の眼に映る己の鏡像は矮小な虫けらに過ぎないか。お前を斬れないならばそうなるしかない。

名を呼ぼうか
届くだろうか
刀を棄ててしまおうか
喰らわれるか

お前と同じものになれないのなら、交わることも出来ないのなら存在し続けることの意味さえ喪うのだ。


名前を呼ぼう。届かなくとも。
唱え続けよう。嗄れるまで。
初めに消えても最後に残っても、俺はお前を呼んでいよう。
お前を知る者がいなくなることのないように。










('09/07/09  耶斗)