お前が好きだよ。多分、ずっと きっと 剣戟の、散る火花の瞬きに目を奪われる。剣の軌道は身体が察知し自ら受け止める。視線は只管傍観者だった。 思い出すよ。笑ってくれたことはない。いつでも痛ましそうな瞳をして己を見ていた。折々のことだったけれど。 お前が己に微笑んでくれたことはない。他の死神たちといるときだけなら、平素の(それが平素であるならば)表情(かお)もみることは叶っていたけれど、二人(そうなることさえ避けていた)のときには唯々無表情を努めて、苦心を眉間に表すから失敗していたけれど、己への意識を殺し、己の存在を無視さえしようとしていた。 なぁ、何故、殺しあわなきゃならない? 殺すために愛したのではないよ こうなることを知っていたのか、お前は。知っていたから冷酷になろうと努めて、そして失敗していたのかお前は。いいや、知ってはいなかった。そうだろう?そうだと云って欲しい。問いかけるには喉が詰まって、刀を振り上げるしか出来ないけれど。 銀の軌跡がまた一閃、二人の間を水平に薙ぐ。 切り離すためばかりに刀を振るうのではないよ 切り結び、鎬の削れる音がする。耳に不快な鉄の泣き声は、早う早うと急くお前の心のままに一瞬で。音の余韻に酔っているなどと云ったら眉を顰めるだろうか。軽蔑されたくはないのだけれど、お前の心に刻まれるのならと思ってしまうよ。 愛という情を知らなかった。 五臓六腑が焼け付くような劣情も。 慈しみ、優しくできるのならそれが最も望ましいのだろう。その想いのままにお前を逃がすことが出来るのならば。 だけど、ねぇ、 俺以外に殺されるなんて許せないじゃあないか。 お前は、お前の死に顔まで俺のものでなくちゃあならない。骨の洗う水まで全て、俺の中に納められなくちゃあ許せない。 道理に悖るよ 刺し貫かんと気流を渦巻かせ切っ先が伸びる。棟で弾いて飛び退る。勝敗は決した。もはや劣勢は覆されぬ。俺の獲物となれよ。お前の血錆は掃わない。いずれそれが俺の命を奪うまで。 お前を殺すのが俺ならば、俺を殺すのはお前であるべきだ。 一護 ただ一つを護るというなら、俺はお前を護って欲しかった。 愚かで傲慢な子供故に愛したのだ ('07/08/01 耶斗) |