汗をかいている。
背と、肩と、首筋と、額と。 眉間を流れて目の窪み。淵に染みないよう目を眇めれば、欄間の下から陽が射った。強い日差しだけ濃い影。重量感。 「昼間っから抱き合うのはどうかと思うんですがー」 「昼間っから抱き合うのもたまにはいいかと思うんですが」 くすくすと楽しげに笑う男の声は転がるよう。真夏だ。蝉が鳴いて、木々の緑は青々しく。土は乾いて白壁は焼かれ。空気は少し、湿っている。 浅葱の浴衣。紫紺の浴衣。絞り染めの朝顔。 紫紺の浴衣が笑っている。 「眩しい」 「目ぇ閉じてろよ」 閉じれば、素直だなと笑う。 耳に転がる、男の声。目蓋を温める夏の陽射し。 瑞々しい草木の匂いに混じる汗の匂い。胸元に滑る男の手。やや小さい。 「暑いのは苦手なんじゃないですか」 「抱き合うのは嫌いじゃないんですよ」 どうせ暑いなら、楽しい方がいいだろう。 この俗物。 肌蹴ていく着物。大気と肌の温度は違わない。男の手は、やや熱い。 「熱ぃ‥」 「我慢」 帯が解かれて手が這入りこむ。被さる男からも衣擦れ。傍らに落ちた浴衣の音。畳と擦れて―――― 今更、物怖じ。 男の肩を握りこむ。薄いけれど、強い肩。 「緊張するなよ」 誰も見ちゃいないから かさかさに乾いた薄い唇が肋骨をなぞり、後ろ髪が畳に擦れる。仰のいて喉が絞まる。ひくりと喘ぐ、死に掛け。打ち上げられた魚。金魚鉢に戻して。 硬い歯牙が肉を食んで、濡れる、熱く厚い舌が皮膚を舐めて、身が捩れる。左肩が浮き上がって、乾いた藺草に額を押し付ける。こそばゆい。もどかしい。 震える息を吐き出して、うすら瞳を開いて潤む世界。揺れている。揺蕩うている。 「冬獅郎‥」 お前、融けんじゃねぇの? 足の間に身を入れて、持ち上がった左肩につられた左膝に手を入れて、捲れた裾から覗いた大腿に口吻を落として。 「融けたらまた、固まるからいい」 どうやって? どうにかして 帯を抜き取り、着物を開き、下衣を取り去り、裸。 広げた浴衣の上で二人。 「雨、振りませんかねぇ」 通り雨でいいですから かばかり空気を冷やしちゃくれないか。 男の首に腕を絡げて身体を起こして、目蓋に唇を押し付ければ汗の感触。離れ際に舌で舐め取り 「熱ぃよ‥」 ごちて抱きしめ、吸い付く二枚の肌。悪戯に男は歯を立てる。離せというから把持した己の肘を解く。滑り込む大気。孕んだ熱。増えた汗の玉。 「熱い、よ」 男の口元、笑っている。薄い唇、薄紅の。なんとかっていう血管があるから人間の唇は赤いのだと誰かが云っていた。何故紅い必要があるのだろう。 合せて、ゆっくりと背を倒して。開いた足。持ち上がった腰。差し入れる男の膝。息苦しい、肺。無理矢理に息を吸い込んで。膨らんだ胸に硬い掌、指先から撫ぜて。息を呑む。唾液を押し込む。上下した喉。蠢いた粘膜。 「冬獅郎‥」 夏に、溶ける。 |