02.闇




闇のような人、だと思った。


黒い髪、黒い瞳、酷薄な唇。
そのどれもが闇を濾して作られたようで。標準的見解で云えば失礼極まりないそんなことを考えた。


初めて言葉を交わしたのは何時のことだったっけ。
リーマスは医務室のベッドに身体を横たえ、少し窮屈に巻かれた頭の包帯に軽い頭痛を覚えつつ目を閉じていた。
目蓋に写る影を見つめれば、それは歩けない自分を抱え上げて運んでくれた無愛想で不機嫌そうな、知人と呼んでもいいのかさえ迷う人。
ふと顔を動かせば目を合わせるようになっていたのに、それが幾度続いてもまともに口を利いたことはなかった。
親友たちが彼を嫌っていたためでもある。
遠慮していたつもりはないのだけれど、身についた臆病さも手伝って挨拶をしたこともなかった。嫌味の応酬が繰り返される傍では、反射のように目は彼を映していて、ちらりとごくたまに走る彼の視線が射抜くようでどきりと心臓が拍動を乱した。それでも直に彼の目は元の位置に戻されて、あれは気のせいだったのだと、己の思い違いだったのだと、は、とわずか乱れたままの心臓を整えるように息を吐き出して目線を落とした。
顔を上げればきっとまた見てしまうから。
一先ず満足な決着をつけられたらしい親友たちが声をかけるまで、見つめていたのは磨き上げられた大理石に映る己の影だった。


彼をみて思うのは闇。
闇を背負い、闇を抱いた人。己は闇に潜むもの。
あぁそうだ、交わした言葉などなかった。ただ視線の記憶が増えただけだ。
学校の中で向けられるそれと、入り口のドア枠に背をあずけ、腕を組んで己をみやるそれ。
変わらぬのに、代わらぬ人の変わらぬ視線なのに、ただ自分だけが違う。
そうだ、彼が初めて己にのみ向けて放った言葉は、その言葉に応えた己の言葉は
交わした言葉は

『いい格好だな。リーマス・ルーピン。』
『こんな夜中にお散歩かい?セブルス』
疲労に目蓋を持ち上げておくことさえ億劫な自分を、いつのまに近づいていたのかすぐ側から見下ろして、けれど高慢だとか偉ぶっているだとかそんな態度ではなくて。
差し出された手を拒めもせず、頬にふれた低い体温が気持ちいいと目蓋を閉じた。












2004.fall  耶斗