03.獣




その姿はおぞましく、けれどこの身を襲った形のない浮遊感に恍惚とした。


追って入ったは崩れかけの、けれど堅牢な廃屋。己の浅はかさ故に負った傷は未だじくじくと中途半端に痛んでいたけれどスネイプは構っている様子をみせない。
半壊した階段を一歩一歩踏板を確かめるようにして上っていく。カリカリと階上から板を引っかくような音が聞こえていたが彼はそれに臆した様子も無く歩を進めていく。
そうして見る、醜くも美しい獣。



「リーマス」
カツン、と小気味よく響いた踵にわずか頭を擡げれば、入り口のドアに立つ厳しい顔をした長髪の男。
「やぁ‥セブルス」
緩んだ目元は意図したわけではない。ひどく自然に零れた声はひどく柔らかく、
スネイプの胸中をざわめかせた。
「加減はどうだ。」
わざと作ったふてぶてしい声は、またわざと高く鳴らしているらしい靴音とともにルーピンの横たわるベッドへ近づいていく。
「心配してくれているのかい?それもわざわざこんな夜中に訪ねてくれて」
嬉しいな
目を細めて笑うルーピンに、ふんとスネイプは鼻を鳴らした。
「別に好きできたわけではない。マダム・ポンフリーがまた後でこいと云う風なことを言ったからだ。」
云う風なこと、で来てくれたんだね。
ルーピンはくすりと口元を綻ばせ、手をのばす。のばしたその手はかけ布の中にひんやりと冷たい空気を導きいれ肌を冷やすけれど、彼は構わずその手をだしてスネイプへゆるりとふった。
甘えるようなその仕草にスネイプはわずか眉を顰めたが、何も云わずその手を取った。
「貴様は子供か?」
心細いとでもいうのではなかろうな。
鼻で笑ってみせるスネイプに、けれど笑みをくずすことなくルーピンは目を閉じる。
伝わる熱は館の中で触れたときよりも、仄かに暖かかった。












2004.fall  耶斗