継承問題




「ネジ、随分髪がのびたな。」
そういったのは、日向家現当主日向ヒアシである。

ネジは宗家の屋敷を訪れ、今は道場にヒアシと花火、3人で居
る。
2人の手合わせを見ていたのだ。
それが一段落つき、休憩をしようかとヒアシが花火を開放した
ときだった。

「日向家の男は皆髪をのばすものだがお前ほど長いものもいま
い。」
確かにそうである。ヒアシ、他日向の男の髪は肩を何寸か過ぎ
たところで切りそろえられているがネジのそれはゆうに腰まで
到達しようとしている。
「そう長いと邪魔にはならぬか?」
道場の真ん中、ネジを招いて向かい合って座りながらヒアシは
ネジの髪をみやる。
開け放した戸から日の光が道場に注ぎ込まれ、生まれる影とい
い具合に絡みあう。

ヒアシの問いに、ただ曖昧に笑っているネジであったが、次の
ヒアシの言葉には異を唱えた。
「もういい歳だ。髪も切り、妻を娶らぬか?」
「ヒアシ様。私は生涯妻を娶る気はございませんと申し上げた
はず‥」
「うむ。まぁ待て。」
声を荒げたネジを片手で制しながらヒアシは言った。
「私はお前を次期当主にと考えていることは話したな?」
それは随分と前、今日と同様に宗家を訪れた日のことだった。
ひとり座敷に通され何事かと戸惑い、なたいぶかしんでいたネ
ジに言った言葉である。その時も髪のことを云われた気がする。

「確かに‥しかし返事はまだ良いと‥」
答が出ていない、と目に浮かばせるネジにヒアシは笑いかけて
「古い者たちの中には異議を唱える者もいるが、頷く者もいる。
しかし若い連中は皆それを歓迎しておるのだぞ。」
ヒアシの目もまたそれを心待ちにしていると期待をこめている
ようだ。
「お前が宗主になれば、日向家は力を取り戻すだろう。年寄り
たちはこの血を頑なに守ることで廃れさせようとしている。我
らが技もろとも。」
それは悲しいではないか。

ネジは背を正しヒアシを見つめたまま黙って聞いている。
「日向の歴史は変わらなければならない。それにはお前のよう
な強い指導者が必要だ。」
「なにより、火影様候補と謳われるあの子もそれを望んでおる
のだろう?」
その言葉に、ネジは迷うように目をおとした。
「宗主とならば忍の道を離れなければならない。しかし、だか
らといってお前たちの絆がきれるわけでもあるまい」
「ネジ。この願い‥」
「受けちゃえよ。ネジ」
「‥‥っ」
「おや。」
突然降った声に、ネジは振り向きヒアシは顔を上げた。

道場の入り口、光を背に立つ青年の姿。笑う顔は彼の金糸より
も眩しいとネジは目を細めた。
「ナルト‥」
零れ出たそれは彼の名。ネジを迷わせる本人の。
「久しぶりだなナルト。健在か?」
「見りゃ分かるってばよヒアシのおっちゃん。おっちゃんも相
変わらず元気そうだってばよ。」
いいながらナルトは音を鳴らして道場へ入り、ネジの隣に胡坐
をかいた。
「それよか先刻の話、俺初耳だってば。ネジ当主になんの?」
どこから聞いていた?と訊くヒアシに、おっちゃんがネジを次
期当主にーのとこからと哂って、んなことより、と身を乗り出
して彼は答をせがむ。

「一族もそれを望んでいるのだがね。」
如何せん本人が‥
「一族全員が望んでいるわけではございません。御嫡子であら
せられるヒナタ様、花火様をと推す声もございます。」
頑として言い張るネジに、ナルトは顔を向けて
「そんなの直ぐにネジを認めるってばよ。」
だってネジはすごいじゃん!
と、未だ直らない、もはや彼の長所ともいえるあどけなさで言
い切るナルトに、ネジも困ったように眉を垂れさせた。
それにヒアシは声を出して哂って
「どうやら力強い味方が増えたようだ。お前が落ちるのも時間
の問題かな?」
「ヒアシ様‥」
諫めるように言ったネジだが、それは目的の半分も果たさなか
った。
しかし、ヒアシと共に笑うナルトにネジはふと思いつき、云っ
た。

「俺が当主になればヒアシ様は嫁をとらせるし髪も切らせなさ
るぞ。」
もともと継承の話を出したのだって髪云々にまつわるのだ。そ
れをネジは思い出していた。
「えっ!?」
固まったナルトに微笑んだのはネジで、いぶかしんだのはヒア
シだ。
「どうしたのだ?」
ぎぎ、と軋む音をたてそうな雰囲気で己に顔を向けたナルトに
日向一族現当主は訊いた。
「それは‥ダメだってば‥」
ナルトの言葉の意味が読み取れず見返す当主に、今度はネジが
哂って
「ヒアシ様。私が髪を切らないのはこれが望むからですよ。」
その時にヒアシは気がついた。
ネジの髪を会話に取り上げる際、必ずというほどついてきた嫁
とりの話。
そういえば、なんとなく繋がっている気もする。

ネジが明瞭に断っていたのは嫁のことであるが、それは暗に髪
のことでもなかったか。
「ネジ‥まさか‥」
「私を次期当主にとお考えならば、このことも考慮にいれてい
ただきたい。」
云ってすくと立ち一礼すると、ナルトの手を引いてネジは道場
を後にした。



日向一族現当主日向ヒアシ。新たな選択、というよりも再びの
一族説得の必要に迫られていた。






 終

若い者らで彼らを反対するものはいないでしょう。
ヒアシとネジの義親子好きだー。好きだよ!
かとなく苦労性な当主が好きだ!


20040924  耶斗