貴方を迎えに来てもいいですか



    
     戯れ言



長い髪を一つに束ねて、尾の如く流す男は美しい朱の瞳を持っ
ていた。紅に三つの巴が輪を描く、類まれなる才を持ちうる選
ばれた忍。
俺はそれをなんの疑いもなく、美しいと思っていたよ。
『貴方を迎えにきます』
いつ、などとは訊かなかった。訊かなくていい、むしろその言
葉を撤回させたい。詰りたかった。否定したかった。
裏切り者 と
けれど、あぁその男は怜悧な面貌で、鮮烈な紅で俺を。
『待っていてください。必ず、俺は還ってきます』
俺に侵食する。
『お前‥殺されるぞ‥』
恐怖だか、歓喜だかに恍惚と喘げば、やはり男は冷めた笑みで
喉をならした。
『その時は貴方も連れていく』
なんて口説き文句だろう

生ぬるい風が渦巻いて梢をざわめかせ、舞い上がる砂埃ととも
に男は消えた。
枯れ落ちた木の葉は舞い、月のない夜はそれでも闇には遠かっ
た。


あぁ、あぁ、赤 朱 紅
それがお前の残したもの。俺の中に流れるものと同じ色のその
彩は、閉じた目蓋を陽に透かすだけで甦る。
俺を解き放て




 持っていったくせに、迎えにくるもないだろう。





  終

2005/02/10  耶斗