こんな時さえ男は平静な貌を保つ。
乱れた様をみてみたいと、好奇心がうずくのは何も俺だからで
はないだろう。




  証明




己よりも長い腕、細い身体、綺麗な肌。
その背にまわす己の腕がひどく惨めにみえて、悔し紛れに結わ
れたままの黒糸をひっぱれば、それがどうやら力加減を間違え
たらしく、思いもかけず晒された白い喉笛にやばいととっさに
身構えた。
けれどあぁ、こんな状態で何を身構えるというのか。
いつも集中していないと詰られる。仕方がないじゃないか行為
よりも光景に、悦楽を追うよりも視覚に感覚が支配されるのだ。
意地悪く一際強く腰を打ち付けられ、駆け上るしびれに背が反
れる。
「うん‥ッ」
「髪を引っ張られるより、背に爪痕を残されるほうが俺には意
義があるんですが‥」
馬鹿を‥誰がそんなことをしてやるものか。

幾度逢瀬を重ねようとも一度として為したことの無い行為。
それはお前、俺がお前のものだと証明するようなものじゃあな
いか

「そうすれば、俺が貴方のものだと証明できるのに」

見開かれ、露に剥かれた漆黒に朱の巴は艶やかに哂ってみせた。




 所有し所有されることの幸せ





  終

2005/02/10  耶斗