ぐちゅる ぶちゅる くちゅ
 黄色がかった透明の汁が



   オレンヂ



 炬燵に半身をすっぽりと被って、新聞を広げて
 朝の風景。
 とはいっても晩い朝。正午に差しかかっている。
 首をめぐらせば窓の外、一面白の空と屋根。
 つけたばかりのストーブの煌々と燃える焔は未だ部屋の隅まで暖めるには弱く。
 炬燵で暖をとっているその人も、指はきっと冷たかろう。

 ぐちゅる ぶちゅる くちゅ
 細かに集まる実を噛んで、指を伝う汁を舐めあげて、一房一房摘んでいく。
 白い指、白い頸、飲み下すたびに上下する。
 布団を被って窺っていたイタチはゆっくりと布団を押し上げ、伸びやかな足を引き出すと傍に畳まれた己のパンツを引寄せ脚を通す。それからおそらく少しも気取っていない、正面をみせて一心に文字を追っているその人に近づいた。
 裸の半身はさすがに凍る空気にふるりと戦慄くが、それも一瞬のこと、直に平素な態にもどる。
「イタチ?」
 側に立ち、片膝をついて、そこでとうに気づいていただろうにその人は、果実もつ手をとられて初めて顔を向け、声を聞かせた。
「どうした?」
 小首を傾げて訊ねる貌が、全く邪慾とは無縁にみせて、イタチは少し面白くない。
 面白くないから、珍しく悪戯心が覗いてしまう。
「イタ‥?チ‥ッ」
 途端不安気に顰められる柳眉だとか眼だとか、薄ら淡く染まる目尻だとか。
 驚きながら、直に咎める色に変わった語尾だとか。
 あぁ、この人だなとざわめき初めの胸懐は荒れぬうちに治まった。
 指の背を舐めた舌で、そのままつけ根を這って、指の先まで舐めあげて。爪の中まで舌先でつついて。端を軽く食む。
「イタチ‥」
 戸惑うような赤い顔が、ようやくイタチの望む貌になって、彼はうっそうと微笑んだ。
 その珍しい悪童のような笑みに、イルカはかような無体も許してしまう甘い己に溜息をつく。
「全く‥お前は‥」
 こぼして、意趣返しとばかりにイルカはイタチの口に噛み付いた。
 突然の報復に目を剥いたイタチも、すぐに楽しそうに目を眇めて歯牙のぞかせた口腔に押し入った。





 終結

2005/02/12の日記より
2005/08/26 耶斗