それでも君への想いが4 あぁ、破られていく壊されていく荒らされていく はやくはやくはやくはやく この声を聞きたくないのに 身体が重い。頭が重い。視界はすでに頼りない。 どうすればいい?どうすれば 微かに彼は己の記憶を辿った。それは彼を打ちのめすものではなく ひと時の安らぎを与えるもの。まどろみながらみる夢のように柔ら かな。光の中微笑みかけるあの あぁ、彼は喘いだ。 あぁそうだ知っている。 俺はそれを知っている。 彼ならこの声を止めてくれる。 休むことなく動き続け、もはや筋のつる痛みを訴えていた両腕をは たりと膝に落とした。 シカマルは初めに見たときよりも随分と小さくなった結界をみる。 あれから一歩も近づけていない、動けてすらいない。次々と結界を 破っていく術者を臍をかむ思いで睨み付ける。 「どうしたんだい、奈良の子。もうお仕舞いかい?」 だったらそこでみておいでよ。近づかなければ何もしない。 思っていたとおり、こちらが手をださなければ攻撃はしないと明言 した女に目を戻す。 「なんだってあんた、そうまでしてアイツを殺したがるんだ。」 理由などあらかた想像できるけれど、つけいる隙が生まれないかと 試みる。 「理由なんて…、どうしようない理由さ。なんてことはない‥くだ らない‥」 わかっているんだよ。 悲しげに笑んだその女の目にシカマルは初めて感情をみた気がした。 うちはの力はこんなものか? 挑発する男の声を無視してサスケは身を潜めたまま動かない。 これまでもてる限りの術をつくしたつもりだ。現に相手も結構な痛 手を負っている。もはや笑っていないのがその証拠だろう。 それでも決定的な一撃が与えられない。与えられるだけの余力もな い。 限界はとうに超えてしまった。いつ膝が折れても不思議はない。 相手をこの場所にひきつけておく。そのために、サスケは残り幾許も ないチャクラを微量に漏らしつつ枝を移動しようとした。 そのときそれは目の端を掠めた。黒い糸。。闇より濃い黒。そんな 黒をもった人間はサスケは1人しか知らない。 風が、吹いた。 次いで、背にあいまみえていた男とは違う人間が立ったのに気付く。 まるでその風が連れてきたようだと場違いなほどぼんやり考えた。 うちはか…? 気づけなかった背後の影は鈍く光る刃を首筋に押し付けてそう質し た。味方のものと思えない殺気を放つそれに、張り付く喉であぁと 応えれば、瞬間解けた殺気ともう1人の罵声。ちくしょうとそれは 吐き捨てた。 味方だ…。 サスケは張り詰めていた緊張を解くと、意思とは関係なしにその身 体は崩おれた。 「おい、ライドウこのガキ下まで連れてってくれ。怪我は酷いが血 はあまり出てねぇみてぇだがなによりチャクラがほとんど無い。 はやく休ませるにかぎるぜ。」 分かった。とライドウと呼ばれた男はサスケを肩に担ぐと姿を消し た。 「治療は良かったの?」 こちらもまた相当の痛手を負っている男を押さえながら問うた。 「あぁ、あれなら下までもつ。ここで治療して下にいくまでに気が つけばまた戻ってこようとすんだろ。眠っててもらったがやりや すい。」 なんでこうも若い奴ってのは無鉄砲なんだかねぇ。 そういって人差し指で、鼻を渡る包帯の上から頬を掻いた。 「コテツは今でもあぁだよ。多少分別はついたみたいだけど。」 あぁ?っと反論しようとしたコテツを無視して男は押さえている男 に縄をかけるとすぐ傍で周りを探っていた男に渡した。医療忍者だ。 「おい、お前自分で持ってかねぇのかよ。」 イズモと非難がましくコテツは言いながら哂う。 「コテツとのコンビネーションは俺のが慣れてるでしょ。」 自分だってライドウにうちはを任せておいて。 と目を細める。 「頑張った可愛い後輩のためにも、はやくこんなこと終わらせなきゃ ね。」 そうして、コテツとイズモは強烈に存在を主張し始めている結界の 方向へと駆けた。 助かったのか…? シノは地面に座り込み目の前の情景を未だに信じられない思いで眺 めている。 己達を囲んだ気配はまやかしなく4つで、そのうちの1つが作戦の 変更を伝えた。 それを聞き、警戒しながらもシノは隠れていた葉の間から姿を現し、 それを見とめた影たちがもう1人へ的を絞った。男は作戦の変更を 聞くなり仲間のもとへ戻ろうと走り出したので、そうせずともどち らがどちらか簡単に見分けはついていただろう。 よくやった。 と知らぬ顔の男はシノに云った。 お前は里に下り身体を休めろ。ここから先は我々だけで行く。ひと りでいけるな? いけるなと聞かれれば頷くしかあるまい。 しばらく地に沈む尻は上げられそうにないが。 シノが頷いたのをみて、男も頷くと1人に剣の男を運ぶよう命令し、 3人は気配も残さず消えた。 大丈夫か? と残った1人が訊いたが、やはりそれにも頷いて直シノは意識を手 放した。 我慢しすぎだ。 影は苦笑してその身体を担ぎ上げた。 □ □ □ シカマル と呼ぶ声がした。それが誰だか確かめようとしたが、あまりに一瞬 で目に捉えることさえできなかった。そして云われるまま飛び出し た。 手が足りないのだろう?貸してやる。 だから俺をあそこへ行かせろ。 「なぁーんだかなぁ。」 シカマルは残り一本となったクナイを手に土から荒々しく顔をだし た木の根に立っている。 「あんだけ緊張させといて、終わるときはえれぇ呆気ねぇじゃねー の。」 なぁ?と目の前の女の背に声を投げる。 女はそれに反応を返すことなく風が消えた結界の中を眺めていた。 信じられないと、その目は瞬きすら忘れたように見開いて。 「理屈じゃないってこういうことだよな。あいつは自分がどんなん なってもあいつのとこへ行くんだ。」 あいつ、あいつとシカマルは名を呼ばなかった。それすら面倒くさ いというかのように。呆れが過ぎたのかもしれない。 「死ぬかも…しれないのに…」 女はようやく詰めていた息を吐き、結界を解くための術者の手はす でに止まっていた。 「あんたらは死ぬ気であいつを殺そうとはしなかったが、あいつは 死ぬ気で守ろうとしてんだよ。」 勝負はついた。 もはやここまでだろうとシカマルはクナイをしまった。 風は声だけを残して女へ、その後ろへ向かって走った。当然女はそ れを止めようと印をきったがシカマルがそれを邪魔した。風は女を 掠め、術者を掠め赤く濁ったチャクラの中へ身を躍らせた。 まったく無茶苦茶だよお前。いつからそんな考えなしになったんだ。 風の名は日向ネジといった。 □ □ □ 身を切るような風に文字通り身体を切り裂かれ血を流しながらネジ はそこを進んでいた。 チャクラの渦巻きによってその中は風が吹き荒ぶっている。己のチャ クラを肌の上に被せてはいるがそれで防げる程度ではなかった。 ともすれば視界を奪わんとする風から目を庇いながら、ネジは一歩 一歩、ゆっくりと進んでいった。 気づけ、ナルト。 ここにいるのが誰なのか ここにいるのが俺なのだと 気づけ そして、応えろこの声に ナルト ふいに視界が開けた。そこはなにもなくただ土と子供だけ。その子 供は力なく項垂れていた。 結界の与えていた圧力も消え、当然身をきる風もなく、温度さえ感 じさせない場所。それが結界の中心だった。 浅い息を何度もつきながら、ネジは歩を進める。気づかぬうちに血 を流し過ぎたらしい。持ち上げた腕はひどく重かった。 ナルト と言葉を紡ごうとした時、ネジと同じように身体を血に染めた男た ちが結界の中に飛び込んできた。 □ □ □ 不覚を取った、と紅は爪を噛んだ。形の良い、綺麗に色を塗られた 爪が歯の間できしむ。 アスマたちを残し、向かった先で案の定同じことをしている者たち を見つけた。 問答無用で即戦闘。盾になり術を発動させるまでの時間稼ぎをして くれる人間もいなかったため今度は紅も肉弾戦に変えた。武器を、 術を巧に使い分け、体力ギリギリまで戦うことをやめなかった人間 たちを治めた。 もはやチャクラは残っていないだろう、動けないであろう人間たち を一箇所に集め、こちらも傷ついたものたちの状態を確かめようと 目を離した隙を吐かれた。 一応の見張りを押しのけてそれらは結界の中へ飛び込んだのだ。 「なんてことを!」 エビスが傷つき動かない足を庇いながら、座り込んだ状態で身を乗 り出す。 「結界へ飛び込むなどと…っ、自殺行為だ」 現に弾かれた何人かはぴくりともせず地に伏している。 「追って…っ」 「ダメです紅上忍!貴方でもこの中では無事には済まないっ。」 つづこうとした紅をエビスの声が止めた。 「それに、彼らの状態ならほおっておいても…」 彼の云わんとするところを紅は正しく理解した。理解はしたが 「死ぬ気の人間は…どんな力をだすか…」 賛成はできなかった。 かといって己がいってもどうにかできるとは、悔しくも自信が持て なかった。 見守るしかない。 それが嫌で力を求めてきたのに。 赤い爪が歯の間で欠けた。 □ □ □ 騒がしい… もやのかかる頭の中に金属音が木霊する。 狐、狐と詰る声はもう耳元で囁かれているようで鳥肌が立つけれど 身体が重い、頭が重い 腕を持ち上げて耳をふさぐことすらままならない。 声がする。狐、狐と声がする。狐、狐と 狐、狐… …―――――ッ 一際鋭く耳を通り抜けたその声に子供の昏い瞳に光が差した。 体中の枷が外れたように軽くなった身体でもって音のするほうに顔 をあげると、己を庇うように立つ男の背が目に飛び込んだ。 もう、覚えてしまった姿形。 何より変わらないその強さ。強さ溢れるその背中。 動きに合わせ踊る黒糸に涙がでた。 「ネジィーーーー!」 □ □ □ 云ったろう?守るのだと。 「酷い格好だな。」 「ネジこそ酷い格好だってばよ…」 全身から血を流し、身を起こしていることさえ一杯一杯だろうにネ ジは微笑んだ。ナルトは相変わらず涙を溢したままそれでもネジに 笑いかける。 「無茶しすぎだってば…」 「そうでもない」 嘘つけ 言葉を紡ぐたびに小さくなっていく声をネジは愛しそうに聞いてい た。 二人から離れたところには地に這いつくばる死体たち。ネジからの 攻撃を受けなくともそれらは容易く地に伏しただろう。すでに刃を 振り上げる力さえ残っていたのかどうかもあやしい。 「ナルト?」 「なんだってば」 「抱きしめていいか?」 血塗れだけれど。 そんなこと気にすんのかよ。気にすんなよ。 両腕を軽く広げた男の胸に自ら飛び込んだ。 ぎゅうぎゅうと抱きしめて、苦しいと楽しげに笑う声にさらにぎゅ うぎゅうと抱きしめた。それに応えるようにネジもナルトの身体に 腕を回し、今残っている限りの力で抱きしめる。 ぎゅうぎゅうと。二人してぎゅうぎゅうと抱きしめあって。 哂いあう。 「ナルト?」 「うん?」 「結界を解かなければ…」 「…うん。」 二人の笑みに影が差す。解いたあとのことを考えて二人の胸中は重 くなった。何が待っているのか分からない。それは“不安“であっ たがネジは言った。 「大丈夫だ。俺が守る。」 それが完全ではないことをお互いが知ってはいたが、なにより安心 できる言葉だった。 そしてナルトの手が印を結ぶ。数種の型をとってから最後の印とと もに込めたチャクラで結界はその中心―彼らの頭上―から水が流れ 落ちるように、地に吸い込まれるようにして消えた。 現れた景色は、チャクラに喰われた虚無の大地。命の無い、黒い土。 それを昏い目で見渡すナルトの肩を抱き、大丈夫だと抱きしめた。 やがて円の終わり、木々の間から次々と顔が現れた。 結界の解ける気配にその衝撃がくるやもしれぬと離れていた者たち だ。後から山に入った5部隊もとうにそこに着いていた。 それらの中心、ナルトたちの正面にあの女傑は立っていた。零れ落 ちんとする涙を堪えて2人をみつめて立っていた。 良かった、とその唇は音なき声で呟いて、5代目火影は地を蹴った。 終 冒頭とネジがナルトを庇って闘うというのを書きたいがために書き 始めたのですが。途中のサスケやらシノやらアスマやらは自分でも 予想して無かったです(痛) 飽きさせてしまいましたらゴメンナサイ。 やはり里内で事件起こすといろんな意味で大変なことに。 次こそネジとナルトのふたりだけを書きたい… ラブラブ書きたひ…。かけるのか…? 20040910 20050115 改稿 |