1.月見 □ □ □ 貴方のことを祈るとき それは月に変わらぬことをと望むのに似て 「イルカせーんせ。お晩です〜」 そう云って嗤いながら窓の桟、腰を落として足裏をつけている男 は一升瓶を掲げていて 「普通に玄関から入ってくださいといっているでしょう。」 溜息交じりにも、頬が緩むのを止められない。 「そろそろ来る頃だと思ってましたよ。」 今日は望月。中秋の名月と謳われる十五夜月。 部屋の明かりは全ておとして。青白い月の明かりに照らされよう。 雲をも溶かさんばかりに鮮やかな、この満月の恩恵を。 座卓を挟んで、首を捻れば窓の外、筒の口のようなまあるい月。 「きれいですね。」 「きれいです。」 云った自分に、優しげに微笑む顔がなにより好きで。 月の光のなか揺れる銀糸が目蓋の裏、鮮やかに焼き付いて。 「また明日から、今この瞬間からもあの月は欠けてゆくんですね ぇ。変わってゆくんですね。」 なんだか儚いですね。 哂った顔はひどく穏やかだったろう。 それに応えたカカシの顔も凪いだ水面のように笑んでいたから。 「カカシさん?」 「なんですか?」 この呼応の心地よさ 「来てくれて‥嬉しいです。」 「俺も、迎えてくれて嬉しいです。」 そう云って先よりも深く笑んだ顔をけして忘れることはないだろ う。 舐めた酒は舌に残る痺れとは裏腹に、ひどく甘かった。 貴方のことを祈るとき それは月に変わらぬことをと望むのに似て 「ねぇせんせ?」 「なんですか?カカシさん」 単衣を身体に巻きつけて、流しの前、用意した肴を盛りながら背 中でそう応える。 「月は変わるばかりではないよ。」 ふりむいた己の顔ははたして何を象っていただろうか 開いた襖の向こう、月を背にくすりと哂った顔は控えめに眉を寄 せていて 「もとの姿にもどりますよ。もとの容にもどります。」 貴方のもとに還ります。 「カカシ‥さん‥」 言葉は不自然に痞えて転び出た。込み上げるものはなんなのか。 「無事の‥ご帰還を‥」 揺れる視界の理由を知っている。知っているけれどそれがなんと いう名だったか思い出せない。 あぁ、貴方のことを祈るたび想うたび 張裂けんばかりの 押し潰れんばかりの こころ が 不安だと啼き濡れる 貴方のことを祈るとき それは月に変わらぬことをと望むのに似て 到底叶わぬことだと諦めていたのだ。 はたりと落ちたそれは、床に黒いしみをつくった。 終 分かりにくいですが事後。 動ける程度に抑えることもできる上忍。 すみません猫丸様‥。ほのぼのにはなりませんでした‥っ(悔) 気分が秋だったんです。えぇそう一丁前にセンチぶってみました スミマセン。 でわ、こんな駄文ですがご自由にお持ち帰りください。 お題提供ありがとうございました。(ヘコリ) 20040928 耶斗 |