8.独占欲




 □  □  □




――噛んで
望まれるままに応えた口腔に鉄臭いそれは嫌に甘く。
思えば、幾度となく繰り返されるそれに己の舌が麻痺して
しまったのだろう。


「ナルト」
「ネジ‥ネ、ジ‥ッ」
焦点の合わぬ目で、ただただ己の下で艶姿をくねらせる情
人は己が名を呼んで喘ぐ。喘ぎながら、息をつく合間に「
噛め」とそう命じるのだ。
「ネジ‥」
噛んで
乞うのならば、求めるのならば応えよう。従おう。
「あ‥、あぁ」
醜く抉れた肉の狭間まら、ぬるい血潮が溢れて落ちる。
それが月の明りに浮かび上がる真白の敷布を鮮やかに飾る
から、勿体無いとまだ流れ落ちようとするそれに舌を這わ
せてすすり上げる。
浮き上がった皮膚からのぞく柔らかな肉を舌先で舐ったな
らば、感極まったように嬌声をあげ、喉を反らして2度、3
度と体を震わせ果てた。
「ネジ‥ぃ‥」
静寂にさえ消え入るほどにか細い声を耳殻の際にきき、自
身を締め付ける肉壁の柔らかさに己もまた果ての近いこと
をぼんやりと思う。
舌と同じに、脳髄までもとうの昔に侵されてしまっている
のだ。
「ナルト‥」
身を起し見下ろした目の端に首の付け根に赤と銀が綯い交
ぜになってぬらぬらと這っているのが映る。
――もう一度‥噛んでしまおうか‥
いっそのこと食い千切ってしまおうか

けれどネジはゆるりと頸を振り、せりあがる笑いを吐き捨
てるようにして一際強く、超えた限界にしゃくりあげる情
人を穿った。



乞うのなら応えよう
望むのならば叶えよう
夜明けには消えてなくなる傷口を、強く強く押し付けよう。
そうして深くに痕が残ればいい。
証が残ればいい。

目が覚めれば何も残さず、また滑らかなままの肌膚を思っ
て再び擡げはじめる凶猛な感情にネジは気付かぬふりをし
た。







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 耶斗    (2005)