さらりさらりと髪をとく指は変わらぬ彼のものだったけれど
それが様子を違えているのにいぶかしげな声がもれるのは仕方が
ないのではなかろうか。




  甘露




「ナルト?」
普段はまとめている鴉の濡れ羽色の長い髪を己より幾分小さな手
に任せている彼は掃けぬ違和感に眉を顰めつつ彼の名を呼んだ。
彼はいつもそうするように愛しげに嬉しげにそして悪戯もまじえ
つつネジの髪を弄るのだけれど、それが今日は色を違えているよ
うに思えてならない。
「ナルト?どうした」
手にした和書をはたりと閉じて脇に退けると縁側の暖かな陽気を
全身に受ける彼は、己の背に隠れる黄金の少年に貌だけを振り向
かせた。のだけれど、
ネジが思わず眉を撥ねさせてしまうほど唐突に、そう思いもかけ
ず少年はぽすっと頭をネジの肩に預けたのだ。
そのままぐりぐりと擦りつけるように押し付ける少年の呼気を布
一枚向こうに感じることがもどかしく思えたけれど、心なしか速
まる動悸を抑えつつ再び「どうした?」と穏やかに片掌を金糸の
頭を被せて問うた。


軽い弾みでその頭を叩いてみれば、むぅ〜とくぐもった声が間近
にあり、それが妙に可笑しくてネジは口元を綻ばせる。
今日は珍しく甘えてくれる
それが嬉しいと、口にはあげないけれど、それが幸いだと彼の顔
は表していて
「ナルト」
顔をあげてくれ
金糸に鼻先を埋めるようにして囁いて、その声色にぴくりと揺れ
た頭が逡巡するように動きを止めてから暫く、そろりと上げた少
年の碧眼にそうとはしらず艶やかに哂ったネジは
「キスをしてもいいか?」
応えはきかず、少年の頭を乗せていた肩を背に引いて、少年が反
応する間もなく軽くなった肩に付随する腕でその細腰を引き寄せ
ると
伺いの形をとった請願を叶えたのだ。







「ネジのむっつり‥」
何をいまさら
だけれど、そんなことを云おうものならますます頑なになってし
まうだろうと予想するネジは、呆れたような悪びれない視線を投
げかけるに留まる。
藺草の芳香を醸す畳にうつ伏せに横たわる人物は恨めしげな声で
なにやらをぶつぶつと呟いているけれど、けしてあの強い光と灯
した瞳をあげることなく脇をしめた手に顔を隠している。
「俺はただネジの髪を楽しんでただけなのにぃ〜」
それはそれで面白くないな
部屋の半ば辺りに寝そべるナルトをネジは縁側の障子に背中をあ
ずけ、半身を日にさらして眺めていたのだが、のそりと身体を起
こすと生来の生業に適った所作で暖かな縁側にいた皮膚をひやり
と冷やす影の中に入ると、つと悪戯に隠しきれなかった頬に指を
滑らせた。
羽が掃いたような軽い感触に勢いよく起こされた身体は紅をはし
らせた頭をのせていて、くっとネジが喉で笑えばますます紅潮し
た。
「なんだってばよ!」
怒っているのか、照れ隠しか
おそらくは後者の、怒気のない顔に微笑みかけて
「俺はお前の身体であそびたい」
これが質の悪い顔の模範だとナルトが里中の人間に示したくなる
ような顔で言ってのけた。


「こ‥の‥ッ、エロオヤジーーーーーーッ!!」


これくらいの意趣返しは許されるはずだとネジは真っ赤な顔で雄
叫びをあげるナルトを楽しそうに眺めていた。















 終

日記にて。
こんなネジ兄さんもたまには‥(逃げ腰)

 20041224 耶斗