夜の帳が落ち、もとより深い森のなかそこはまさしく深淵をのぞ くよう。動かなくなった肢体に確認のためか、はたまたよろめい た身体をささえるためか足の裏を押し付けた。もはや白く翳み始 めた視界ながら彼は緊張の糸をといた。 まだ早い。そう植えつけられた忍の本能は声をあげたけれど、倍 になって圧し掛かる大気に踏みこたえるのが事実精一杯だった。 「‥勝った‥」 深い息を吐き出し、ぐらぐらと揺れる上体をなんとか支えつつ酷 くゆっくりと身体の向きを変える。 戻らなければ ちりぢりになった仲間たちはまだ戦っているだろうか。 己が行っても手を貸すどころか足手まといになりかねない。けれ ど彼の本能が、人としての、人の子としての本能が彼の地の匂い を求めて彼の身体を突き動かす。 戻らなければ 刹那。大気も揺れなかった。草もそよがなかった。だのに世界が 垂直に倒れた。否、己が地に横様に倒れこんだのだ。 何も分からなかった。 ただ、そう、鈍い心臓への圧迫感がーそれを痛みといっただろう かー自重に耐え切れなくなったのではないと知らせてくれた。 己の足先へ目玉を動かす。首を傾ぐことも頭を這いずらすことも できぬから彼は、目蓋だけが意識をもっているように恐々と目の 淵に貼り付いたまま目玉をずらした。 棒。否杭。違う足だ。 またじりじりと目玉を転がす。 闇に沈みながら確固たる容をもった影、その輪郭はぼやけていた けれどそれが誰だかは反射といおうか例えば後姿だけでもその者 だとわかる感覚、そんな直感で彼は確信した。 そうして記憶が彼の意識表層に浮かび上がる。 ――――アイツらとチームになって散り散りの戦闘になったなら、 例えかすり傷ひとつ負ってなくても死んだふりしてろ そんな先輩たちの言葉の意味を彼はようやく理解した。 彼、今年ようやく中忍になったばかり。初めて先輩上忍とともに でたA級任務だった。 己を冷ややかに見下ろす二つの眼だけが白くそこに浮いていた。 「ナルトの手当てはうけさせん‥」 医療班がくるまでそうしていろ。 それだけ言い置いてそれは己の目蓋に残した影さえ浚うかのよう に存在の匂いさえ残さず消えた。 さすがは上忍‥確か3人ほど誘き寄せていったはずなのにまだ気力 も体力も満ち満ちているようだ。 「つーかよぉ‥、オレ‥死ぬだろ‥」 せめてアンタが手当てしてってよ‥ 唸るようにそれだけ云って、彼は意識を手放した。 天恵は執念か。彼が次に目覚めたのは焦がれた己が故郷の病院だ った。白い壁に囲まれた彼一人しかおらぬ小さな部屋は、同僚や 先輩からの同情と称賛の見舞い品でもって鮮やかに飾られていた。 終 日記より アニメナルトのチョウジ戦が終わったあたり。 感想かいてて段々盛り上がってきたので勢いのまま。 私のssは笑いをめざしても笑えないものができあがる。と。 チッキショウッ(泣逃) 20041224 耶斗 |