白の月銀の月 黄の月金の月 神々しくも禍々しく、いっそ冒涜なまでに艶やかで 何者よりも 華やかな 鮮烈な紅の月 それだけで耳を裂くような高い金属音が大気を奔った。2本のク ナイが弾きあい、対照に幹に突き立った。 翻る 影が。 確かに容をもっているはずの影が輪郭も朧に薄い一枚布のごとく 宙を掃いた。それは2枚。先だって2本のクナイがその切っ先を打 ち合ったそこで出会い静止しまた戻る。それだけに見える動作が 残したのは中空に散る紅の飛沫。黒き影を浮き彫りにした真紅き 盆に溶けずに落ちた紅の華。 高い杉の梢をおおきくしならせながら踏みとどまる。散る髪が邪 魔だと男は思った。結わいていたはずが十数度におよぶ衝突の弾 みで解けてしまっていた。 ――お前が好きだといったから 切らずにいるのだと、今にも手にした白刃を滑らせたい衝動を抑 えながら男は対峙する影に苦笑する。 まるで獣の態だな 己も似た格好であろうが、彼よりはまだ人であろう。彼はもはや 忍ですらない。 見よや。頬に奔る爪痕のごとき刻印と、牙を剥く捻じ曲がった唇 と。今にも飛び掛らんと前姿勢、枝に食い込むは彼の鋭き爪。ご ろごろとなる喉はまるで獲物を欲しているようじゃあないか。 お前を殺そう それが約束 小指を絡めたわけではないけれど、言葉で誓ったわけではないけ れど それはオレのオレだけの、オレだけに許された負うべき甘美なる 業 両の手につつんだお前の頬の温かさは未だ消えずに残っている。 |