ケダモノだもの





梅の花咲く季節。浅いながらも積もる雪をきしませながら、二人
連れ立って外にでてみれば
「可っ愛い〜。な、ネジッ!」
路地の端、よれた箱に入れられた生き物をみつけて、そうするの
が自然なように高く抱き上げて、鼻の頭を紅くした子供は笑った。
そのまさしく溶けるような笑顔に自ずと頬も緩んで、ネジもまた
ほのかな笑みを返した。

――このところ、よく笑うようになった。
そういったのは誰だったか。彼の伯父にあたる人だったか。
修行をみてもらっているのだとその言葉に、見学をと遊び半分訪
れた先、組み手の合間、彼が席をはずした時に聞いた。
――君のおかげかな‥。ありがとう
そう云って笑った雰囲気が、目の前の人間のそれと似ているよう
で、思いなく広がった笑みに抱えあげた子犬の少し堅い毛皮を口
元に押し付けた。
それをどうとったのか、彼も腰を屈めて子犬の黒々とした瞳を覗
きこんだ。
「生まれてから暫く経っているようだな。しかしこの寒空の下置
き去りにするとは‥」
普段より一段低い位置にある男の目を見下ろして、ナルトは不意
ににんまりと口を歪めた。ついで甘えたような声で男に擦り寄っ
て。
「な、ネジ‥」
「飼えないぞ」
即答に、うえぇと苦渋の顔して唸ってみても、先ほどまでの微笑
はどこへやら、すっかり表情と云う表情を払い落としてすっと立
つ男。
「忍犬にするにはとうが経っているし、任務で家を空けている間
はどうする。まさか連れて行くわけにもいくまい。休みの日でも
修行で構ってやる暇などないだろう。」
諦めろ。
言い返したい気持ちはやまやまだが、如何せん筋が通っている上
それを覆せるほど屁理屈が得意でもないし口達者でもない。さり
とて引き下がるのかと思うとそれも面白くない。
それでいつものように意固地になった気持ちで上目に睨んでみた
りして、懐に子犬を抱え込んだりなんてしたりして。
けれど落ちる沈黙と、けして咎めるでもない相手の視線に気持ち
は萎えて、やっぱりダメかと諦めに目を伏せかけたとき
「まぁ、今夜は冷え込むだろうし。そんな中こいつ独り放りだす
のも可哀想だ。」
そんな言葉に希望を呼び戻されて、ぱっと顔をあげれば
「一晩だけだぞ」
苦笑に似た微笑でもって、そう了承してくれた。
だからナルトは、溢れんばかりの喜びを、身体全体から溢れさせ
て
「ありがとだってばよ!」
片手に犬を抱きこんだまま優しく微笑むネジに抱きついた。

それじゃあ早速暖かい部屋に戻ろうと、特に目的もなかった散歩
を切り上げてナルトの部屋に戻ること半刻。
ネジがナルトの犬への余りの構いぶりに溜息をつくこと十数回。
一応の確認もしたくなるというもの。
「一晩だけだからな」
「分かってるってば、あ」
「!」
犬の愛情表現だ。感謝の気持ちかもしれない。だとしたら礼とい
うものだ。なら咎める理由も、腹を立てる理由もない。けれど、
犬だから。
犬だからといって、
「やっぱり今すぐ元いた場所に戻して来い」
「え、えぇえっ!?何でだってばよ!!?」
なお舐めようとする犬の舌を避けながらナルトは再びの説得にか
からなければならなかった。



 ケダモノだもの





  終

こんなネジ兄さんも好きです。
20050106の日記より

 耶斗