[空は何色] 見上げた空は雪空のように一面白く覆われて、いまにもちぎれそうなほど垂れ込める厚い雲を蹴散らせるだろうかと考える。 空は、確か、蒼。 任務が長引いている。予定から当に2週間は過ぎただろう。夜となく昼となく動きつづけ、時間の感覚はなくなってしまった。こんなときこそ冷静であらねばならない。わかっている。当然だ。けれど、 「苛立ってんな、ネジ。」 音もなく隣に降り立った同僚が揶揄うように笑う。 「貴方は随分余裕なようですね。」 視界をかすめるのは黒い影。細い銀の残像。手に構えたクナイで降り注ぐ針を弾きながらネジはさらに上の枝へと跳躍した。枝葉に隠れるのは一人、目に捕えられる範囲にいるのは20ほど。 しつこい、とそれらの穴を探しながら三人編隊で任務に追い出した里長の若く美しい貌を苦々しく思い出す。 なんともすまなそうに笑っていたな。 そんな表情を浮かべてさえ彼には苦い味を舌に覚えるものなのだ。 彼女の背向かいに広がる空は何色だったろうか。 しわがれた蛙のひしゃげるような声が間近にきこえ、驚いて振り返れば何もなく。ついで下方へ目を走らせれば先ほどの幾日か行動をともにしていた男が木々に弄られながら落下していた。細い枝を絡ませて突き出した太い幹に背を打ち付けそのままぴくりとも動かずに、ただ虚ろな眼が瞳孔を開いているのをどこか夢幻に見やりながら痺れる頭はそれでも脚を止めなかった。 あぁ、貴方は酷い。火影様。 己に死出への道添いなど無用なのに。 すでに記憶から薄れ始めた仲間の面貌を、悪戯にわらう顔を思い出しながら、隣が寒くなるななどと考える。 己より僅か速い足で向かい来る影たちは徐々に逃げ場を削っていく。誘導されているのにどこか愉快を覚えつつ、ネジは抗うことなく枝を渡りつづける。 さて、この先には何があったか。 いずれ骸の隠れる処がいい。 空を望めれば嬉しいのだけれど、分不相応だと頭をふる。 それでもやはり、空の色を思い出したいと腕に走った鋭い痛みに鮮血が飛び散るのを視界の端に捕えながら、その紅だけが見知った色であることを哀しく思う。 空の色は何色か。 手をのばすことさえ、姿を拝することさえ放棄した彼の人の瞳と同じだったことは覚えているのだけれど。 やはり昏く褪せた網膜の記憶にそれはただ黒かった。 空は、蒼は、何色だったろう。 日記に載せた後放置してたブツ。 2005/12/27 耶斗 |