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 人の住まぬ山の奥、片腕のない男がひとり獣に混じって生きていた。
 精悍な身体は浅黒く陽に焼けて、歳月を刻んだ貌には無精髭も伸びていたがそれもまた男盛りの彼を逞しくみせている。
 男は高く結った長い髪を揺らしながら、長の年月でつくられた獣道を、草を掻き分け進んでいた。六感が教える方角へ、迷いも無く足は彼を運んでいく。
 そこに、前方から人の笑う気配が伝わって、男もまた少しだけ可笑しな気分になる。
「遅かったな」
「悪ぃ」
 悪びれなく笑って片手をあげる青年は、男のなくなった片腕をみて驚いたように目を瞠り、そうして申し訳なさそうに眉を下げた。
 それに、気にするなという風に哂って、日向ネジは残した一本の腕でナルトの身体を抱きよせた。ナルトも腕を絡げてネジの身体を抱きしめた。
 苦しい、と彼らの肺は訴えたけれど、渇きと飢えはそれをも凌駕した。
 それらを表すように重ねた唇も貪欲で、息をするのも惜しいと身体が崩れても抱き合ったまま土の上で口付けを交わしようやく衝動が収まるころ僅か隙間の空いた唇の距離で囁きあった。
「お前だけが」
「俺だけが」
「俺を」
「お前を」
「感じていればいい」
 暫くそのまま眠るように重なり合った後、ぽつりとナルトは声を溢した。
「長く‥待たせたってばよ」
「あぁ、長く待ちすぎて枯れてしまうかと思った」
「それは困るってばっ」
 本気で慌てたような声にネジは声をあげて哂うと、その力強い腕でナルトを抱き起こし額を合わせて一度見つめあった後、瞼を下ろし安堵するように息を吐く。
「これでようやく俺はお前のものだな」
 ナルトも瞼を下ろして微笑んだ。
「俺もお前だけのものだってばよ」


 ようやく望んだ楽園でふたり幸せそうに笑いあった。





本当の終り



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