俺はお前からたくさんのことを学んで たくさんのものを手に入れたんだ。 この感謝をどうすれば伝えることができる? 無愛想メランコリー 部活後の更衣室で、着替えを続けるものが一人。夜が本格的 に身をおろそうとする手前の闇を覗かせる窓を背中に、椅子 に身体を沈める男が一人。 沈黙を払いのけようとはせず、各々が己の作業に没頭してい た。 椅子に背にもたれている男は作業というようなことはしてお らず、ただ目の前の着替えを続けている者を何とはなしに眺 めているだけだったが。 「ご、ごめん ね。き 着替え、おお、終わった から」 ようやく最後のボタンを留めて、あわあわとユニフォームを バッグに詰めた猫っ毛の少年が、荷物を両腕に抱えながら、 椅子に座る黒髪の少年に向き直って言った。 「あ、阿部‥君?」 反応のない相手に首を傾げつつ再度阿部君と名を呼べば、今 気がついたとばかりに瞬きをして目を合わせた。 「あぁ、じゃあ鍵閉めるか。」 鍵当番のために残っていた阿部も腰をあげると、傍らに置い ていたバッグを肩にかけた。 「う ん。ごめん ね、ま 待たせ て。」 泣き出す寸前のような顔で、そう謝る少年にいいって、とわ ずかに表情を緩ませて云った。 それから先に立って歩き出し、ドアに辿り着くまでに一度み ていた窓の鍵や、道具を確認しなおす。けして人の前にでて 歩こうとはしない少年が小走りに、出入り口を潜るのを扉を 押さえて待っていた阿部だが、少年の足が内と外の境界線を 越えようとしたとき、扉を押さえている手とは反対の手でそ れを遮った。 伸ばされた阿部の腕が扉の代わりのように道を阻んだために 、中途半端に踏み出した足をそのままに立ち止まった少年は 不思議がるような目を向けた。 「ど、したの?阿部 くん」 問われた阿部はしばらく何も応えずに見つめ返していたが、 そろそろ本気で挙動不審になりそうな少年をみて 「俺、さ。お前のこと好きだぜ?」 ゆっくりと自分の舌に馴染ませるようにその言葉を紡いだ。 「う、え!?」 本当に驚いたのだろう。思わずといった風に一歩下がった。 「あ、阿部 くん?」 赤く染まった頬で、戸惑うような顔がその言葉の意味を求め る。 ドアを押さえる位置から動かないまま。阿部は変わらぬ無表 情で 「スキだぜ」 と繰り返した。 「え、あ、う‥うん‥」 その熱が伝わるほどに紅くなった顔で三橋は おれも‥ と小さく呟いた。 俺はお前からたくさんのことを学んで たくさんのものを手に入れたんだ。 この感謝を伝えきる言葉を知らないから 多分一番近い言葉を 「三橋‥」 スキだよ その日は、緊張し過ぎでさらに冷たくなった三橋の手に阿部 が熱を分けながら帰路に着いた。 無言であることが常のような2人だが、普段の倍以上の圧力に 三橋は終始覚束ない足取りだった。 阿部もまた、三橋の羞恥が伝染したかのように、繋いだ手に 余計に力をこめて、やや早歩きで三橋を引っ張るように歩い ていた。 終 なんてことはない告白大会。臆面もなくよくこんなものが書 けるな。 ちなみに特に深い意味はないスキです。 三橋も面と向かって好意を与えられることに慣れてないので 紅くなっただけで。 ハルミハかいたからアベミハも書かな〜という妙な義務感が ‥のせいで‥ 20040919 耶斗 |