経緯はどうあれ祝ってくれたことがすごく嬉しかったから だから彼の番がきたらきっと、と 阿部様ハピバ 「今日阿部の誕生日だってなー」 「え?」 次の授業の準備をと、机の中から教科書を引っ張り出して いた三橋はその言葉に動きをとめた。 「今日朝、栄口から聞いたんだけどさー。水臭いよな阿部、 云ってくれればよかったのに」 ぶぅっと小さな子供のように唇を尖らせて、椅子の背を前 にして跨った彼はガタンガタンとそれごと身体を揺らす。 「今からじゃなんも用意できねぇじゃん?練習前にケーキ とかさー」 喰いたかったなー。 と、それはお祝いの意味でなのか己の欲求なのかとその場 に花井なり栄口なりがいてくれたならつっこんでもくれた だろうに。 田島の言葉に相槌を返しつつも三橋の視線は段々とさがり、 口はへらりと笑っているようでありながらその貌は蒼褪め ていた。 練習前、の部室 「‥‥‥で、なんで三橋は泣いてんの?」 畳のうえに正座して、えぐえぐとときに肩をはねさせなが らとめどなく零れる涙を拭っている相棒を指差して安部は 助けを求めた。 ことの起こりは数分前 「ちぃーっす」 「おっす」 高校球児たちが挨拶とともにドアをくぐる。その後につづ く形で三橋もドアをくぐった、そこに 阿部の顔が 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」 「は?おい三橋‥」 で、今。 「三橋‥」 なぁ 結局誰一人として手を差し伸べてくれるものがいなかった 阿部は三橋に倣って正座をしている。 向かい合った三橋はいまだ泣いていて、顔を上げてもくれ ない。 ――なんで顔あわせただけで泣かれなきゃいけないんだ。 実は阿部、面白くなかった。 ――なんかしたか?おれ。なんかしたか?実は気付かない うちにこいつに変なことしてたりとか‥。って変なことっ てなんだよ!? 悶々とひとり頭を抱え始めた阿部の異様さに三橋も思わず ひくりと目をあげた。 今の状況をつくりあげてしまった自覚はあるけれども、今 の状態におちいった罪を己が負わねばならないのかどうか を三橋は判断できなかった。 ――昨日別れるときは普通だった。朝顔あわせたときも特 に変わりはなかった。昼は用事があって一緒に飯食えなく て顔みれなくて、そういえば休み時間にも一度も顔合わせ てない ぶつぶつぶつぶつぶつぶつと恐らく本人は意識していない だろうけれど結構はっきりその独り言は聞こえている。 「あ‥阿部‥くん?」 ――それが何か問題だったのか?ムリしてでも会いにいか なきゃいけなかったのか?でも用事もないのに教室いって そんで‥ 「阿部‥くんッ」 「あぁ!?何!」 ひぅっ。驚きの反射に竦んだ三橋は再び涙を溜めはじめて、 それをみた阿部は慌てて手をふった 「いやッ、何?ごめん!‥どうした?」 「‥‥!‥‥!‥‥ッ」 「うん。ごめんって、だから落ち着いてくれ」 そんなに怖がらせてしまったか?なかなか緊張をといてく れない三橋に阿部は心の中で叫ぶ だからなんでお前らは遠巻きにみているだけなんだ! 実は結構ご立腹 チームメイトたちはもはやいい見世物だという態で阿部と 三橋から離れたところにめいめい楽な姿勢をとっている。 だって。焦る阿部なんてそうそう見れるものではないのだ。 「‥う‥ぉ‥」 「うん?なに?」 やっと言葉らしい言葉を発してくれた三橋に阿部はことさ ら優しい笑みで応えた。それに安心したのか三橋はほっと 息をつくと覚悟をきめるようにすっと息を吸い込んだ。 「きょ‥きょぉ‥」 「うん」 「阿部君‥たんじょっ‥び、だって‥」 聞いたから 「俺‥俺‥プレゼント‥なんも、なくて‥」 「ごめん、ね」 「何謝んだよ」 随分と時間のかかった説明を聞き終わった阿部は呆れか安 心かに知らず入っていた肩の力を抜くと、拍子抜けしたと でもいうように三橋を見た。 「う、え?」 「お前それで泣いてたの?」 「う‥」 それで、と云われてそれだけでもないような気はしたけれ ども考えてみればそれだけでもあるようで三橋は何もいえ ない。 言葉に詰まった三橋に阿部は長嘆を溢すと、わしっと三橋 の栗毛に手をのせた。そのままわしわしわしと髪をかき混 ぜて、目を白黒させる三橋ににっと口端を持ち上げ言った。 「お前が悩んでくれただけでいいよ。」 云ってなかったの俺だし 「え?」 分からない、と首をかしげる三橋に 「お前が、俺のことで悩んでくれただけで嬉しい」 もう一度、艶やかに笑ってみせた。 さぁー練習行くぞー。と立ち上がった阿部を目で追った三 橋だったが、ついでくいっと阿部に目で促されて慌てて三 橋も立ち上がった。その途端、正座にいいかげん痺れてい た足が体重を支えきれずよろけた。 「‥っと、」 それは酷く自然な行為である。真っ当で、当然の。けれど 2人を除く部員たちは自ら留まっていたにもかかわらず思 わず目を覆いたくなった。 だって背景ピンクにみえたんだ。 後日部員の1人が語る。 「気をつけろよ?三橋」 「ご‥ごめ‥」 「つかお前ちゃんと飯くってるか?」 細すぎんぞ 「た、食べて‥る」 手を差し出しただけじゃ足りなかったのなら抱きとめるの は自然な流れというものだろう。だけどさ、阿部。さりげ なく抱きしめるのはどうかと思うんだ。三橋もよろけたの 支えてもらえれば後はひとりで立てると思うんだ。だから さ、阿部。 いいかげんピンクな空気をとばさないでくれ。 そんな仲間たちの声無き訴えを一身にうけつつ阿部はしば らくそのまま三橋との会話―質疑応答を続けたのだった。 終 とりあえず日記のほうに書いて。そして長かったから移動 ですよ。 どうやらしばらくはこんな形でいくらしいですよ。 20041212 耶斗 遅ればせながら!阿部!!誕生日おめでとう!! |