よう。なんていいながら校門の前にたつ長身。
いや、だからあり得ないってアンタ。




   影と君と背中




シニアでバッテリーを組んでいた元先輩は、現バッテリー
の三橋廉にご執心らしい。俺の。
途中まで、とそれまでは2人で歩いていた道も今は3人の影
をのばす。三橋を挟んで3人並んで。
けれどもやがて、それなりにそろっていた足並みも徐々に
一人分遅れていく。


あり得ないってアンタマジで。
一週間に一度ならまだしも三日に一度?
異常だろ。
武蔵野第一におけるアンタの存在ってなんなのさ。
王様?


自然と境がうまれる三橋と阿部の間。
それもこれも脳みそつんつるてんの猿ピッチャーがしきり
に俺の相棒に話しかけて、あまつさえ肩に手までまわして
いるからだ。あぁ、さっきからちらちらとこっちを窺いな
がら嗤っているお下品な面を殴ってやりたい。


阿部は面白くなさげに二人から視線をそらす。やり場のな
い両手はズボンのポケットに突っ込んで。
少し遅れているせいで嫌がおうにも視界に入ろうとするそ
の後姿を頑なに拒否して。
仕方がないからアスファルトのうえ、ついていく小柄な影
に目を落とす。


ゆらゆらと揺れる影は単調で、単調ゆえに目を捕える。
と、ふいにその影が違う動きをみせた。その動きにつられ
るように阿部も顔をあげると
夕日の朱を少しだけ汲んだような茶色の目が。
それに魂ごと掴まれて、足がちゃんと動いているのか分か
らなくなった。
目をそらせないままでいると、今度はその唇が動く。
紅を塗ったように赤い、
『      』
何?なんだ?聞こえない。
『      』
唇が同じ動きをする。


なんだよ。わかんねぇ。何云ってんだよ。
阿部は己の眉が寄せられるのを感じた。それは突然彼の後
ろから強烈な光をあびせた夕日が助けたからかもしれない
けれど。
何云ってんだよ、三橋‥


「タカヤ!」
早く来いよ。
気付けば、初めにとっていた間隔よりも幾分か広がったそ
こに立ち止まって振り返っている2つの影。
目が覚めたときのようにはっきりしない頭を何度か瞬きを
することで現実に戻そうとしながら小走りに距離を詰める。
「ったく、レンがしきりに後ろ気にするから何かと思えば‥」
とぶつぶつ云っている男は無視して、阿部は三橋の顔を覗
きこんだ。
「な なに?」
また3人歩きだしながら、けれど阿部は三橋から目をそらさ
ない。
「なに?阿部君」
「さっき、何て言ってたんだ?」
「え?」
「何二人で話してんだよ。」
阿部と三橋が話しているのが面白くないのか、牽制のよう
に三橋を引き寄せながら榛名が阿部に向かって云った。
「アンタだって十分三橋と話してたでしょうが。ほっとい
てください。」
「あ、なにそれ可愛くなーい。」
からかう様な調子の榛名に凶暴な顔をする阿部を、三橋が
押し留めていう。
「あ、阿部君。」
「何?」
呼ばれた阿部は当然のごとく返事をする。
「え、あ ち、違う。阿部君‥って呼んだんだよ‥。さっ
き‥」
夕暮れの朱いひかりではごまかせないほどに紅くなった三
橋が切れ切れの言葉でそう云った。
阿部君の 名前 を
云ったのだと。その唇は。
「レン。んな奴ほっとけほっとけ。」
言って、また三橋の意識を己に向けさせる。
あぁ、でもなんだかな。
今はそれほど憎らしくもない。


隣、2人で話す元バッテリーと現バッテリー。
それを横目に眺めながら阿部は微かに微笑んだ。


三橋が振り向いてくれるなら
三橋が振り向いてくれるから


アンタの存在もそう悪いもんじゃあない。

3日に一度はやりすぎだけど。





 終


阿部‥?うぅん。彼は阿部という皮を被った別の人デス。
だって阿部が阿部でいくとド修羅場だぜぇ?(誰)
それにしても乙女入った感が‥いた‥い‥がはっ(吐)


 20040928  耶斗