06.牢の中の君 ----------------------------------------------------- 出てこいよ。とっくに手はのばしているんだから。 その手をとるよりも 格子越しじゃない、お前の身体を抱きしめたいんだ。 馬鹿な夢をみた、と、榛名は自己嫌悪に痛む頭を押さえ ながら身体を起こした。 ――――秋丸のバカがあんなことをいうからだ。 両手をパンツのポケットに入れた不機嫌な顔の男が街中 を闊歩している。 身なりは高校の制服、背負ったバッグが彼を野球部員だ と知らせる。 けれどそうならば彼は今も学校にいて、そうでなくとも どこぞのグラウンドで練習に汗を流していなければならな い時間帯だ。 考えるまでもなく自主早退。 足をとめた彼の目の前には聳え立つ、ほどでもない平均 的つくりの駅。 思案するようにそれを見上げて、けれど次には滑り込ん できた列車に迷いなく乗りこんだ。 元来考えるのは苦手な性質だ。ぐるぐると思考の糸に絡 めとられるのは自ら檻に入るのと変わらない。四辺を世界 から隔てられその中で胡坐をかいていても仕方がない。 俺は でた。 だからお前もでるべきだ。 勝手な言い分だなんてことは分かってる。 けれど、 ただの夢にだって、意味があると思いたいじゃないか。 のばした手は引っ込めて、出口の格子を押し開け。 鍵は牢屋の内にある。 △back |