怒った顔の 己を睨みつける、マウンドに立つに似た眼差しだとか 引き結ばれて色を変える唇の 虚勢じみた牽制だとか 予想だにせず扇情的だなんて 思えばもっとみたくなって 度を越せば泣き出してしまう加減の難しさ。 操縦士 「榛名、お前あんまり三橋君を苛めるなよな」 云った声は友人のもの。己の球を受け続ける気概のいい男。 気に入っているが、先の台詞に気に入らぬ言葉を聞き分けて榛名は機嫌悪気に振り向いた。呼び止めるつもりはなかっただろうが背中から声をかけられれば、そうしてその内容では足も止まる。人の行き交う廊下には相応しくなかろうが榛名の知ったことではなかった。土台、気に掛ける余裕も、今は失われていた。 「んだよ。またお前んとこに電話したのか?あいつ」 苦々しさを舌の上に感じるのは自業自得に反抗的な悋気だと知っている。 電話番号を交換した、と知ったのはいつだったか。それもこの友人の口から、結果報告という形ではなく、会話の中から知るに至った。 『お前、まさか番号交換したのか?』 半ば呆気に問うた己に、友人はこともなげに応えたのだ。 『そうだけど。それが?』 会話の違和感を解消してくれる答ではあったけれど、別の不快感を呼び起こして、友人たちの会話は一方的に打ち切られることとなった。 榛名のメンタルをも支える役目を担う友人はそんな顔をする榛名にも気圧される風なく、珍しく怒った顔はぎゅっと唇を引き結んでいた。 「そうだよ。電話口であの子泣いてるみたいだったぞ。一体お前何言ったんだ」 「何も。別に泣かせたかったわけじゃねぇよ。っつーかアイツほんと泣き虫な。俺んな酷いこと云った覚えねーぜ?」 否定と言い訳と自己弁護と。混ざっていることに羞恥も覚えながら、しかし榛名は己を肯定しようと胸を張る。 ほんとに、そこまで、手ひどく傷つけるようなことは言っていない‥ それでも人でなしではない彼は、自身を省みることもできないことはないから 「兎に角、今日にでも三橋くんに謝るんだぞ」 くどくどと、意識しないうちに終わったらしい説教の後言い渡されたそれに 「わーかったよ」 面倒くさそうに後頭部を掻きながらも、素直に応えるのだった。 今頃もあの子は泪をみせないながら心のうちでは泣いているのだろう。そうしてそれを癒すことができるのも己だけだろう。そうだろう。 悪戯心から派生した一事。煩わしくはない。いっそ快感じゃないか。 『そんじゃぁ練習までには帰るから』 片手を上げて咲った男はこの後に構えていたノルマ2時限分の授業放棄を宣言して。鞄も机に置いたまま、携帯と財布と友人の胸ポケットから掠め取った自転車の鍵とだけもって陰気な校舎を抜け出した。 とりあえず、泣いてるあの子は携帯で呼び出しておこう。 放課後一番に外へでろ、と。 そのためだったら掃除もサボれ。 終 2005/08/26 耶斗 |